ひとりで出来たよ
「これがこの国の通貨だ」
ガルドはチャリと銀色と銅色のコインをひかりの手のひらに置いていく。
「大体、平民の屋台は一食分が銅貨五枚くらいだ。飲み物やパンだけなら二枚。
店内で食べるなら、庶民的な食堂やレストランなら十枚以内で充分。ちょっといいレストランは銀貨を一枚と銅貨数枚使う。
日用品は銅貨、衣類は安い物は銀貨が数枚。
家具は平民なら銀貨10枚で充分かな。
金貨で買物は、ほとんど貴族が使う。
屋台や平民の普通の店では使わない」
「じゃあ、今日使うのは銅貨だね」
「そうだな。ひかりは何が食べたい?」
マークとの話が終わり、ひかりとガルドは平民が食事をする通りに来た。屋台が色々並んでいる。
店内で食べるのもいいけど、屋台からは美味しそうな匂いが漂っている。
「うーん。どれが良いのかな。ガルドのオススメってある?」
「そうだな、あそこの薄い生地に野菜や肉を挟んで食べるトルフィってヤツは美味しいぞ」
ガルドが指差した店には、なんだか見たことがあるような食べ物があった。
「ん?タコスみたいなやつかな?」
「タコス?」
「私の世界にあった食べ物だよ。そっくり。食べてみたい」
「じゃ、あれにしよう」
二人はトルフィの屋台へ向かった。
「ひかりが買ってみるか?」
「いいの?」
「ああ、ほらこれ使ってくれ」
「わかった。行ってくる」
てててと早歩きで屋台の前に行き、店主に話しかける。
「トルフィを二つください」
「はいよ。銅貨6枚ね」
「えーと、6枚」
チャリッと店主の手に銅貨を渡した。
「まいどありー」
トルフィを二つ持って、ひかりは笑顔でガルドの元に戻ってきた。とても誇らしげだ。
「買えたよ!はいこれ」
「うん。よかったな」
ガルドは、初めての買物に嬉しさを隠しきれないひかりに、抱き締めたい衝動をなんとか押さえた。
こういう時にリサリアがいたら、可愛い!と抱き締めて褒めまくっていただろう。
「向こうにベンチがあるから、そこで食べようか」
少し先が広場になっていて、ベンチがいくつか等間隔に並んでいた。
二人はベンチに座り、トルフィを食べはじめた。
「いただきまーす。……ん。タコスだこれ」
「じゃあ俺は、ひかりの世界の食べ物を一緒に食べれているのか?」
「ふふっ、そうだね」
そう考えると不思議な感じ。もし、ガルドが私の世界にいたら……絶対関わることないな。モデルとかやっててもおかしくない。うん。
周りは人が結構歩いている。夕飯を買う人達だろうか、食べずに持ち帰る人たち。子供連れの人もいる。ベンチに座って食べる人達もいる。
初めて、砦以外の人たちの生活を見てる気がした。
ガルドが横で食べている。
ひかりもパクリとひと口食べる。
そういえば、こんな風に男の人と二人で食べるなんて初めてだ。異世界に飛ばされなかったら、一生なかったかもしれない。
人生って何が起きるかわからないなあ。
不思議な感覚になりながら、ひかりはごくんと飲み込んだ。




