愛の力
「本題に入るぞ!」
ガルドがそう言いながら、マークに地図を出すように頼む。
マークは蹴られた足をさすり、笑いを堪えながら頷いた。
マークは地図を持ってきて、テーブルに広げた。
ガルドは商店通りの土地が空いている場所を指差す。
「砦のここに店舗兼住居を建てて欲しい。一階を店舗、二階を住居にするか、一階の手前を店舗、奥を住居にするのとどちらがいい?」
「何の店をやるんだ?」
「手作りの雑貨を展示販売できる小さいカフェをやろうと思ってるよ。大きい利益は望んでないから、こぢんまりした店舗でいいの」
「砦で雑貨を売るカフェ?それは利益が出るのか?」
辺境伯後見で利益がマイナスになるのは、商売人としては見過ごせない。マークは眉を顰めた。
「マーク、王家からひかりには資産が渡る。店が潰れることはない。店は、王家がひかりを取り込む価値がないと思わせるための隠れ蓑だ。むしろ繁盛しないほうがいい」
「そうなのか」
店が潰れる事がないほどの資産をひかりが持つ?
価値を下げるためにわざと繁盛しない店を作る?
つまり王家はひかりと繋がりを断つ気がない。
繁盛させる力もあり、価値があるということだ。
ひかりは一体どういう人間なんだろう。
ガルドから話を聞けば聞くほど、ひかりの謎は深まるばかりだった。
「…ふむ。じゃあ店舗は目立たない方がいいんだな?外装を落ち着いた雰囲気にするか。
女性の一人暮らしなら住居は二階の方が安全だから二階建てにしよう。
辺境伯の紋章をどこかに使ったほうがいいだろう。家を建てる材料も、最高級を使おう。
貴族に『この店には手を出してはいけない』と気付かせ方がいい。辺境伯後見だとわかるように店内のあちこちに印を散りばめておこう」
「頼んだ」
ガルドは頷き、ひかりに「これで大丈夫か」と確認を取る。
ひかりはコクコクと頷くことしかできなかった。
なんかすごいことになってるな。いいのかな?
「家具はどうする?」
「家が建ってからでいい。ひかりはこの国の常識を学んでないから、すぐに住めない」
「そうか。じゃあ、建ってから連絡を入れるよ」
「わかった」
話がまとまり、ひかりはホッとひと息を吐いた。
ガルドは頼りになるなあ。すごいなあ。
「この後はどうするんだ?常識を学ぶ必要があるなら、街で買い物や食事をして行くといいんじゃないか?」
「ああ、そうだな。ひかり、平民が使う店を利用してみるか?」
「わあ、行きたい!」
「よし、じゃあ行こう」
目を輝かせたひかりに、優しくガルドは笑った。
「ガルド変わったなぁ」
マークは見たことないガルドの姿を、今日は何度も見た。
あの鉄のような若様が、こんな顔をするようになったなんて。
どんな魔法をかけられたんだろう。
ひかりちゃんが変えたんだなあ。愛の力は凄いね。




