若様も大変ね
「しかし、異国から来た上に、こんな若い娘さんが一人で店をやるのは危なくないか?」
ガルドは随分若い嫁さんを貰うんだなあ。
一人暮らしなんて心配じゃないのか?
ひかりは、不思議そうに首を傾げてマークに答える。
「大して若くないので大丈夫ですよ。砦は治安も良いですよね?」
「え?」
「…ひかりは、俺と同い年だ」
「ええ!?………えええ!?」
「おい、何度も見比べるのを止めろ」
「いやだって!マジか!」
「…そんなに大人に見えないですか、私」
ひかりはへにょりと眉を下げる。
若く見られるのは、良いこともあるが面倒なこともある。一人暮らしをするのは危ないだろうか。
「大丈夫だ。砦でひかりを害するなんて、騎士団全員を敵に回す自殺行為だからあり得ない。安全だ」
「そ、そうなんだ」
ガルドの言ってることが物騒だ。リサリアを筆頭に団員達がとても頼もしい存在に思えるけど、なんだろうこの不安感。
「ひかり嬢、慕われてるんだね」
「ひかりでいいですよ。嬢って年じゃないですし」
「じゃあひかりちゃんで。俺の事はマークでいいよ。あ、敬語もいらないよ。俺、堅苦しいの苦手なんだよね」
「わかった。マーク」
ガルドはショックを受けたような顔をして、震える声でひかりに問いかけた。
「な…なんで、マークはすぐに呼び捨てれて、俺の時は渋ったんだ?」
「えっ!?あれはガルドが!」
「…俺が?」
切ない色っぽい声で言ってくるから、むしろ言いづらくなったーーーーなんて言えるか!!
「ううう、もっとサラッと言ってくれれば出来たよ!」
「ぶっは!!あはははは!若様かっわいいな!」
ガルドの見たことない姿にマークは腹を抱えて笑った。
「若様って呼ぶな!お前のせいで商会の人間がその呼び名使うだろ!今だに変な噂が消えないんだぞ!」
「変な噂?若様って貴族では普通の呼び方じゃないの?」
てっきりこの世界は、貴族の嫡男をそう呼ぶのかと思ってた。ひかりが首を傾げる。
「あは…ガルドは、子供の頃はキリッとした綺麗な子でね〜。坊ちゃんより若様って感じだよなって、従兄弟達で若様呼びしてたんだよ」
「へえ〜。ガルドの子供の頃見たかったな」
「そ、そうか?」
ひかりからそう言われて満更でもないガルドに、笑いを堪えながらマークは話を続ける。
「うちの一族は成長するとガタイがデカくなるし、剣術とか体術とかめちゃめちゃ扱かれて大抵厳つくなっちゃうの。
で、たまたま学園の騎士科の実習で魔獣退治やったら、コイツ返り血浴びて帰って来てさ」
学園で多くの令息令嬢達がいる前で、実習に行ってなかった従兄弟達は驚いて大きな声で叫んだ。
「若様!誰にやられた!?」
血塗れで、ギロリと睨んだ(ように周りには見えた)ガルドが答えた。
「俺の血じゃない。隠れてたのを見つけて討ち取った」
それから、瞬く間に広がった。
裏の世界に関わる者は辺境伯令息に引き摺り出されて殺されるーーー
「なんで裏の世界?」
「丁度、ガルドの父上が騎士団団長やっててね。私兵を使って謀反を起こそうとした貴族を一網打尽したのさ。あの人は規格外に強くて鬼神って言われてるの。
それで、恐れをなした貴族達は、血濡れでも平然としてるなんて、若様と呼ばれるのには訳があるのに違いないってなっちゃった」
あは☆と全く悪いと思ってない顔で笑うマーク。
周囲の認識が、美少年に対しての耽美な意味の若様から裏社会を潰す厳つい意味の若様になった。
この年まで嫁が見つけられなかったのは、この話がいまだに消えないからだった。
「だって、ガルドは騎士団団長になっちゃうんだもんなあ。鬼神の跡を継いだと思われるじゃん?」
「ガルド………えーと……えー…」
「ひかり、無理して励まそうとしなくていい」
「うん」
「ぶっふ!!」
笑い続けるマークにガルドは思い切り蹴りを入れていた。




