嫁を勝ち取るぞ
「改めて、ご挨拶を。私はマーク・エッセン。商会長をしており、ガルドの従兄弟にあたります。どうぞよろしくお願いします」
マークはひかりに丁寧に挨拶をしてくれた。
ひかりが挨拶をしようとしたら、ガルドがスッと手で制してきた。
「マーク、ここでの話は誓約書を書いてから聞いてもらいたい」
「…ほう?騎士団の問題かい?」
マークはなごやかな表情だが、探るような目で誓約書を出したガルドを見る。
「サインをしなければ話せない」
ガルドが首を横に振ると、マークはチラとひかりを見た。名乗りすらガルドに守られる彼女は、相当な人物ということか。ガルドにとっての大切な人とは、色んな意味が含まれているようだ。
「わかった」
マークはペンを取り、サラサラと署名した。
ガルドは誓約書を受け取ると、ひかりを一瞬見たのち話し始めた。
「彼女はひかり。遠い島国の出身で、王家から内々に保護を受けている」
「王家から?」
マークは、ひかりを見る。確かにこの辺りでは見ない髪色に顔立ちだ。王家から保護を受けるとは、王族の落とし胤か?
「生まれが少々特殊でな。ひかりがどこで育ったかも、この先、世間に出ることはない。彼女は、王家に取り込まれることを望んでいない。
国直属の騎士団で保護をし続けるのは、王族から本気でひかりを望まれた時に守るのが難しい。だから、砦に辺境伯後見の店を構えてそこに暮らすことにした」
「辺境伯が後見?」
「ああ、父上は了承している。後日、一族に通達が出るように書状を書く」
マークは驚きで言葉が出なかった。
ガルドは、一族総出でひかり嬢を守ると言っている。
それほどの人物なのか?それとも、彼女は次期辺境伯夫人として、既に当主に認められたのか?
「…わかった。商会は協力を惜しまない。ひかり嬢、何かあったら遠慮なく言って欲しい」
「あ、ありがとうございます」
ひかりはぺこりとお辞儀をした。
王家には入りたくないと言っているし、振る舞いからして平民として育ってるようだな。
マークはにこにことしながらも、ひかりに対してどう接するか思案していた。
このまま辺境伯夫人として嫁ぐのは難しいか?
ならばどこかに養子に入るのだろうか。
「マーク、詳しい話はまだだ。だが、考えはある」
「!……そうか。なるほど。そうだな!」
ガルドは、既にどうやって嫁にするか考えてる。
王族が望むほどの女性をガルドは手に入れようとしているんだ。そりゃ一族総出になる訳だ。
マークはニヤリと笑った。
王族にケンカ吹っかけるとは、やるじゃないか、ガルド。
マークも辺境伯一族の一人。
戦いは勝利する為に全力で挑む。
この日ひかりは、気付かぬうちに辺境伯一族からの守護を得た。




