若様の従兄弟
「ここがうちの親族がやってる商会だ」
「わあ…大きい…」
周りに店に比べて明らかに立派で大きい建物に、ひかりはポカーンと見つめる。
ガルドは本当にすごい貴族なんだなあ。
出迎えに年嵩の従者と若い店員がやってくる。
「これは若様!ようこそいらっしゃいました。マーク様をお呼びいたしますか?」
「ああ、頼む」
ガルドは馬から先に降りると、ひかりの腰に腕を回し、軽々と降ろす。
「ありがとう」
パタパタと身なりを整えるひかりを見て、従者は驚いた。
若様が…女性を…?これはもしや一大事では…!
「馬をお預かり致します。さ、連れて行きなさい」
「はい」
従者が指示をすると、店員がサッと手綱を受け取り馬舎の方へ連れて行く。
「さあ入ろう」
ガルドは優しく笑いながら、ひかりの背にそっと手を添えて歩き出す。
「え、う、うん」
いつもと違うガルドの振る舞いに、ひかりは戸惑いつつも歩く。
その姿に商会の人間達は、気付かれないようにしつつも注目していた。
そこに商談で来ていた貴族達は、目を見開いていた。
ガルドの振る舞いは、明らかに大切な女性への扱いだった。
「どうぞこちらのお部屋でお待ちください」
商会の中は広くとても綺麗で、高そうな調度品が並んでいたが、通された客室もまた豪華だった。
ひえ。なんかすごい部屋に通された。
ひかりはガルドにエスコートされて、おずおずとソファに座る。
お茶とお菓子がテーブルに置かれ「失礼します」と従者は出ていった。
シン…となった部屋で、ひかりは戸惑いを隠せない。
「ガルド、なんか私すごい場違いな気がするんだけど、大丈夫…?」
めちゃくちゃ高そうなティーカップに、手を付けるのも憚れる。きっとこのお菓子も美味しいに違いない。
さっきガルドは若様って呼ばれてた。現実でそんな呼び方される人、初めて見た。そんな世界実在するんだ。え、私なんでここにいるの?
ひかりは別世界過ぎて状況が飲み込めず、混乱の極みにいた。
ガルドは苦笑しつつお茶を飲む。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。これから会うのも俺の従兄弟だよ。子供の頃からの付き合いなんだ」
若様の従兄弟…さっきマーク様って言われてたな。なんかすごそう。ガルドの言葉は全然安心出来なかった。
コンコンとノックがされ、ふわふわした赤毛の男性が入ってきた。
「よお、ガルド!久しぶりだな!」
顔が整っていて、口調はフランクだけど振る舞いもスマートだ。
この人も若様って奴なんだろうか?
「マーク、急に悪いな。ちょっと頼みたい事があるんだ」
ガルドが話してる途中で、マークはひかりに気付いて目を丸くした。
「ガルド!お前が嫁を見つけたって噂、本当だったのか!」
「あ?」
「え?」
「さっき商人に聞いたぞ。辺境伯家に春の兆し訪れたようでってね」
マークは腕を広げて、おどけて話す。
さすが商売人は噂話を手に入れるのが早い。商会の人間達も先程のガルド達を見て、話を広げているだろう。
「マーク、その話はまだ早い」
「え?そうなのか?」
マークはチラとひかりを見た。
え?私?ガルドのお嫁さん?
マークの勘違いを理解して、ひかりは真っ赤になった。
慌ててひかりは「違います!」と首を横に振る。
「彼女はひかり。俺の大切な人ってのは変わらないが、誤解だ」
「待って。その言い方じゃ誤解を解けません。ちゃんと説明しましょう」
ひかりは、頬を染めながら狼狽えてガルドを止める。
なんつー言い方するんだこの人は。
チッと隠れて舌打ちするガルドをマークは見逃さず、ははーん?と面白そうに2人を見た。
「なるほどなるほど。そうか、まだ なんだな」
「ああ」
済ました顔で返事をするガルドに、マークはニヤリと笑うと肩を叩く。
「ハハッそれは失礼した。まあ頑張れよ!応援するからさ!」
ひかりは、誤解が解けた…のか?とホッとしていた。
ふーん、まだガルドの想いに気付いてない感じかな?でもこの子…。
人の心の機微に聡いマークはひかりの心を読んでいた。
ガルドの奴、外堀から埋めてきやがった。これがこいつの本気か!面白い!
従兄弟の春の兆しを喜びつつも大変面白がるマークだった。




