最愛を見せつける
王都の入り口では、40代くらいの門番が二人立っていた。
商人の馬車や冒険者風の人たちが並んで検問を受けるのを待っている。
ガルドの馬に気付くと、門番の一人が「これは団長殿!」と敬礼した。
「ああ、ご苦労。今日は商会に用があるんだ」
ガルドは馬を止め、門番と話す。
「そうですか。そちらの方は?」
門番は抱きしめられている小柄で可愛らしい女性を見る。
綺麗な黒い瞳と合うと、女性は小さく会釈をした。
団長が大事そうに女性を抱きしめているのは、門番にとって初めて見る光景だった。
「私の連れだ。身分は保証されてるから大丈夫だ」
そう言いながら彼女を見る団長の柔らかい視線に、門番は目を見開いて驚いた。
「そうですか。どうぞお気をつけて」
王都への道を通れるように開ける。
「ああ。ありがとう」
その様子を見ていた商人たちは、ざわつき始める。
「あれは辺境伯令息様じゃないか!」
「女性を連れてたぞ!あれは…恋人か、それとも婚約者か?」
「団長殿に婚約者なんて聞いたことないぞ!」
長年、辺境伯令息は婚約者もおらず、浮いた話もなく、いつ結婚して跡を継ぐのかが話題になっていた。
貴族社会では、見た目がたおやかな王子様のような男性が好まれ、令嬢たちの人気を集める。
しかし団長は身体も逞しく迫力がありすぎて、貴族令嬢たちは近寄りがたく、嫁探しがうまくいっていないと聞く。
それがついに、辺境伯家に春の兆し──。
「久々に王都にめでたい話が飛び出すかもしれないな!」
仲間の商人が興奮して声を上げると、周囲の者たちも笑いながら「こりゃ商戦の行方も変わるかもしれない、注目せねば!」と盛り上がる。
王都では、辺境伯の親族の関連商会がいくつもあり、商人たちは結婚準備や商戦の行方を予想し、鼻息荒く話し合っていた。
門番は、先ほどひかりを抱きしめる団長の柔らかな表情を思い出し、心の中で「良かった」と静かに頷いた。
王都に入り、賑やかな街並みをひかりは楽しそうに眺めていた。
「あっ、あそこでリサリアと買い物したの。買い方が豪快でめちゃくちゃカッコよかった」
「ハハッ、リサリアはひかりの物を大量に買って帰って来たものな」
ひかりとガルドは楽しく話をしながら、馬を進ませていた。
その姿を遠くから見ていた王都の貴族たちは、互いに小声で話す。
「あれは、辺境伯令息では?女性と二人でいるなんて珍しい…」
「あの方はどなた?見たことがない令嬢ね。あんなに親しげに…婚約者が出来たなんて聞いた事がないわ。平民かしら」
「何故だ……彼女と親密なようだが…?」
2人の姿はとても注目されていた。
貴族たちはガルドがひかりを大事に扱う様子に驚き、目で追いながら小声で話している。
急いで家に戻る者や、噂話をする者もいる。
ーーーひかりは誰にも渡さない
僅かな時間で、ガルドは街中の貴族たちに牽制を見せつけていた。




