小さいのに苦労したんだな
リサリアはひかりを抱き締めたまま、目に涙を浮かべながら声を震わせる。
「家族は!? ひかりちゃんの家族はどうしたの!? 一人で頑張ってたのね……偉いわ!」
「え? いや、実家は普通にありますけど……」
ひかりは慌てて首を振る。しかし、リサリアの母性爆発して興奮した耳には、その言葉は届いていない。
「ほんとに、こんなに小さいのに一人で……!」
「その年で働くのは普通なのか?」
この世界の人間には、小柄で童顔のひかりは10代前半に見えていた。
ガルドも、眉を顰めつつ問いかける。
「は、はい……普通ですね……?」
ひかりは頭をかしげ、小さく答える。
質問の意図が全く理解できず、心の中は混乱でいっぱいだ。
この世界では、成人しても働かないの……?
自分の生活は、日本では当たり前のことだったはずなのに、ここではその常識が全く通じない。
目を丸くして、リサリアとガルドの視線を交互に見つめた。
「リサリア、いい加減落ち着け」
いつまでも抱き締めているリサリアに、ガルドはため息をつきながらも宥める。
ガルドが慈愛に満ちた眼差しでひかりを見る。
「ひかり、この世界では平民でも生活が苦しくない限り、子供は働かない。騎士団で保護する事になるが、安心して暮らしてくれ。」
「は、はぁ…え?子供?」
リサリアがハッと目を見開いた。
「もう、こんな夜遅くなっちゃって! 夜更かしは良くないわ!早く寝なきゃね!」
「そうだな。もう寝る時間だな。」
「そ、そうなんですね……?」
さっき変な事言ってたのは気のせい?
にこやかなリサリアと頷いてるガルドの姿に、ひかりは首を傾げるだけだった。
「じゃあ、話はまた明日にしよう。ひかりは今夜どこで寝るか考えないとだな」
ガルドとリサリアは、改めてひかりを見つめる。
華奢で可愛らしく、力なんてなさそうなお人形のような存在。
たとえ男の子だとしても、あの騎士団の寮に放り込むのは危険ではないか。
かといって女子寮に入れるのも、また違う問題が起きそうだ。二人は顔を見合わせて悩む。
「とりあえず、俺の部屋で寝るか?」
「そうね…それが安全な気がするわ」
団長の部屋なら団員からの目もなく、この子も落ち着いて休めるだろう。
沈黙のあと、ガルドがぽつりと言った提案にリサリアも頷いた。
ひかりはそのやり取りを聞き、すぐに納得した。
――成る程。
確かに一番偉くて強そうな団長さんの部屋で寝れば、安心安全だ。
突然現れた自分に、親身になって話を聞いてくれる2人。
ひかりは雛鳥の刷り込みの如く信頼していた。
小さく頷きながら、ひかりはそのままガルドとリサリアに導かれるまま、執務室を出て行った。




