好きならば
早朝の鍛錬場にリサリアは向かう途中で、同じように今から向かおうとしているガルドに会った。
「おはよう、ガルド」
「ああ、リサリア。おはよう」
まだ周りには誰もおらず、二人で歩いて行った。
「ねえ、ひかりちゃんなんだけど、ものすごくピュアで初心だって知ってる?」
「急になんの話だ」
ガルドが怪訝な顔をしてリサリアを見る。
「好意は言葉でストレートに言わないと、全く伝わらないわよ」
「は?」
「誰かさんの遠回しのプロポーズは、冗談だと思われたってこと」
「………?誰かがひかりにプロポーズしたのか?」
「はあ?」
ガルドが眉をひそめながら言ったその質問に、リサリアは黒いオーラを漂わせた。
この唐変木、もしかしてその気がないのにあんな言葉を言ったってこと?
「昨日のひかりちゃんと結婚の話をしたわよね?」
「ああ、ひかりなら望めば誰とでも良縁を結べるだろう」
ガルドは苦笑しながら答えた。
他の相手を選ぶと思うと苦しいが、仕方がない。ひかりの幸せが何より大事だ。
「………本気で言ってる?」
リサリアは睨むようにガルドを見つめる。
「?」
「ひかりちゃん、あとどれくらい一人でいられると思う?」
「何を言って…?」
「まさか王族が放っておくとでも?すぐに色んな男が来るわよ。ひかりちゃん好みのね」
ガルドは息を飲んだ。
陛下の言った“ひかりが落ち着くまでそっとしておけ”という言葉の意味を、今さら理解した。
「偶然を装って、ひかりちゃんと恋仲になるように頑張るでしょうね。そこに愛があるかなんて関係ないわ。目的は知識よ。
ひかりちゃんが、それに気付かないままなら良いわ。でも違ったら…どうなると思う?
ガルド、日和ってる時間なんて無いのよ」
リサリアはハーッとため息を吐く。
「まったく、しっかりしてよね!今のところ第一候補はガルドなんだから!」
「そうなのか?」
ガルドは予想外の励ましの言葉に目を瞬いた。
リサリアはガルドに苛立たしげな視線を投げる。
「あのねえ…辺境伯令息ごときじゃ、ひかりちゃんを守れないかしら?それとも本気じゃないのかしら?王族に甘えなんか通用しないわ。欲しいなら奪いなさいよ!
このままじゃ、他にいい人が現れたらそっち応援するわよ!」
リサリアはツンと澄ました顔で、ガルドの先を歩いて行った。
全く。ひかりちゃんを王族から守るには、ガルドの爵位が最適だからヒントをあげたって言うのに!
爵位が高くて、ひかりちゃんを大切にしてくれる男はどこかにいないかしら!?




