ここにいて
夕食後、リサリアは仕事に戻る為にひかりと別れた。
今夜は臨時見張り台に寄り道しようかな。
街灯りも星空も綺麗に見えてすっかりお気に入りの場所だ。いつか朝の景色も見てみたいなあ。
ヨイショと階段を登って行く。
ひょこっと最上階に出ると誰かいた。胸の高さの塀に腕を乗せて外を眺めているようだった。
ありゃ、先客がいる。
団員さんが休憩に使ってるのかな?邪魔しちゃ悪いね。
ひかりは下に戻ろうと回れ右した。
「ーーーーひかり?」
「あ、ガルドさん?」
外を覗いていたのはガルドだった。少し驚いた表情でこちらを見ていた。
「ど,どうした?こんなとこに」
「ただの散歩です。すみません、休憩中の邪魔しちゃって」
いつものガルドさんと様子が違う。昨日の事があって気まずいのかな?さっさと離れたほうがいいな。
へらりと笑って手を振り去ろうとした。
「あ、いや大丈夫だよ。どうぞ。」
ぎこちなくガルドが隣へ促してきた。
「そ、そうですか?」
気を使わせてしまったな。
ひかりは、ガルドの隣に来た。
塀のすぐ下に段が一つあって、ヒョイと登って塀を掴んで外を眺める。
「景色綺麗ですよねえ」
「ああ、そうだな」
ガルドは、ぱっと見どこかの令嬢に見えるのにひかりのお転婆な動きにふっと笑った。
ひかりは景色に夢中になって、ジッと外を見ている。
ガルドはどんな顔して会えばいいのかわからず、食堂へ行く事ができなかった。でもひかりの自然な様子に少し拍子抜けをした。
「ひかり、本当にすまない」
「あー…もう気にするの止めませんか。事故みたいなものです」
ひかりは謝罪の言葉を聞くとチラリとガルドを見て、ちょっと困ったように空を見る。
「だが…嫁入り前の女性に対して、あれはないというか…」
「嫁に行く予定が全くないから、気にしなくていいですよ」
ひかりはガルドを見ずに苦笑した。
「私は…結婚出来るんですかね?この世界で家族を作るなんて想像も出来ないです。」
街の灯りの数だけ、色んな人の暮らしがある。私もその1人になれてるんだろうか。
ーーこの世界に私は存在していいの?
ジッとひかりは遠くを見る。
風がなびいて、静かな時間が流れる。
ガルドは、ひかりの言葉にすぐ声が出なかった。
彼女の姿がとても儚く、脆く感じた。
「ひかりは魅力的だから、好ましく思っている奴は沢山いるぞ。ひかりが望めば良い家庭を作れる。俺だって立候補するぞ」
ひかりは目を見開いてガルドを見た。
真剣な表情でこちらを見ていて、目が合う。
「そ…れはありがとうございます」
あまりにも真剣な瞳に、ひかりは瞬き視線が泳ぐ。
「えっと、あの」
チラッとガルドを見ると、こちらを見続けている。
なんだ、この空気?え?どうすればいいの?
オロオロとひかりは俯く。
「ひかり」
ガルドはひかりの手をそっと握る。
「ここは、ひかりの世界だ。砦だっていつまでも住んでいいんだよ。だから、ここにいて欲しい」
手を優しくぎゅうと握るガルドの瞳は、ひかりに側にいてと言っているようで目を離せない。
言葉が出なかった。
ひかりはただ、静かに頷くのが精一杯だった。




