自己紹介しましょう
執務室に入るとリサリアは、ひかりをソファに優しく降ろした。
「はい、ここでゆっくりしてね」
ひかりは小さく頷きソファに座ると、リサリアは当然のようにその横にぴたりと座った。
ガルドはリサリアの浮かれっぷりを呆れつつ、自分は正面に腰を下ろす。
「まずは、自己紹介をしよう。俺は団長のガルド、こちらは副団長のリサリアだ」
「桜ひかりです。よろしくお願いします……」
ひかりは小さく頭を下げた後、ガルドの顔をチラリと見る。
さっきは剣を持っていて怖かったけど、この人も優しそう…良かった。
ガルドと名乗る男性は、ダークブロンドの髪を無造作に一つに束ねていて、姿勢も綺麗で精悍な雰囲気だった。
「ここは――何という国か、そして君がいる場所はどこか、理解しているか?」
「いえ、何も…わからないです。」
ガルドに落ち着いた声で問われて、答える自分の返事に心細さが増していく。
何も知らない事がこんなにも怖い。
ひかりは手をぎゅうと握った。
「サクラ・ヒカリ……姓があるんだな。貴族なのか?」
ガルドは、それにしては話し方が平民に近いと首を傾げる。
ひかりは慌てて首を振る。
「いえ、ただの庶民です……!」
庶民なのに姓があるのか。
ガルドとリサリアには、ひかりの世界は一体どんな所なのか想像がつかない。
「ここはリネーヴァ王国の東の砦アウリスだ。リオラ騎士団が守っている。君はどんな世界から来たのか、教えてくれないか?」
リサリアはひかりの頭を優しく撫で、にこやかに微笑む。
「大丈夫、怖がらなくていいのよ。
ゆっくりでいいから、話してくれると嬉しいわ。
ひかりちゃんは、日本という国から来たのよね?その日本ってどんな国なのかしら?」
「えっと……日本は、海に囲まれた島国で、四季あって……古い文化と新しい文化を大事にする国……ですかね」
言葉に詰まりながらも、なんとか説明する。
「……色んな思想がありますけど、海外からは珍しい国民性だと言われています……」
「そう。ひかりちゃんはそこから来たのね」
リサリアは、ひかりの説明を丁寧に頷きながら聞いた。
優しい眼差しにひかりは少しだけ安心し、胸をなでおろした。
ガルドも、ひかりの話を静かに聞いている。
親から離されて不安だろうに礼儀正しく素直な様子に、庇護欲を掻き立てられる。
「ひかりはどんな暮らしをしてたんだ?」
「私はただの会社員です。一人暮らしで……ここに来る前は、もう寝ようって布団に入ろうとしてたところで…」
「か、会社員?…一人暮らし!?こんな可愛い子が一人暮らしですって!?」
その答えを聞いたリサリアの目が一気に見開かれ、まるで正義の怒りを爆発させるかのように声を荒げる。
「え?え?」
「……リサリア、落ち着け……」
「もう大丈夫だからね!」
ガルドは、リサリアの暴走にため息をついた。
リサリアは止まる気配もなく、母性全開でひかりを抱きしめている。
ひかりは自分が寝る準備をしていただけの話に、なぜこんなに憤慨されているのか理解できず、頭の中は大混乱だ。
一人暮らしってそんなにダメなの!?
ぎゅうぎゅうと抱きしめられるのを止めてほしくて、ひかりは声も出せずにガルドを見る。
困ったようにガルドは二人の姿を見つめていた。




