繁盛しない店づくり
「ここが商店通りですよー」
エランが指し示してくれた通りは、小さな町のちょっと栄えた商店街といった感じだった。
種類豊富な店が立ち並ぶのではなく、専門店が並ぶ感じ。カフェや呑み屋、食堂もあって、どれも個人店だ。家族経営か二、三人を雇ってる程度の規模だった。
「これなら、私がお店やっても違和感なさそう…かな?」
ひかりとエランはお店の中を少し覗いては、次の店へと巡っていた。
「そうですね。利用客も大体が団員達ですし、細く長くやりたい人向けな土地ですよねー。
ひかりちゃんは何のお店やるか決まってるんですか? うわ、これ高っ」
エランは花屋の店先に並んでる植木鉢の値段を確認しつつ質問した。
「可愛いカフェなんかどうかなーって思ってるんです。…この植物、なんか良い香りしますね」
ひかりも花屋の見たことがない観葉植物を興味深そうに見ながら、なんとなく答えた。
「えっ、可愛いカフェ?マジですか?」
パッと瞳を輝かせながら、エランはひかりを見た。
「予定ですけどね」
「うわー楽しみ。可愛いひかりちゃんがいる可愛いカフェでお茶飲めるとか、癒されないはずがないですよ。常連になりますね!」
ニコニコ笑って嬉しそうに話すエランに、ひかりも嬉しくなった。
「うん、まだ開店するかわからないけど、その時は遊びに来てくださいね」
気さくに喋ってくれるエランと一緒だと、ウィンドウショッピングが楽しい。
ひと休みしようとカフェでお茶をした時には、すっかり打ち解けていた。
「エランちゃん、今日はありがとう」
「えへへー、楽しかったね!こんな護衛またあったらいいなあ」
「また一緒にお出かけできたら良いね」と笑い合いながら、商店通りの探索を終えた。
「ただいま帰りました」
エランはひかりを連れて、団長の執務室に報告に来た。
「ああ、ご苦労」
ガルドが書類を机に戻してこちらを見た。
「では、失礼します。ひかりちゃん、またね」
エランはパチリとウインクして部屋を後にした。
ひかりが嬉しそうに手を振ってる姿を見て、ガルドは優しく声をかけた。
「エランとは気が合うようだな」
「はい。とても楽しかったです」
護衛騎士を何人にするかはまだ決まっていないが、候補の一人はエランが良いかもしれない。
ガルドはひかりの護衛選びを慎重に進めていた。身の危険だけでなく、心も守ってあげたかった。
「えっと、エランさんと話してて、可愛いカフェをやってみようかなって思いついたんですよ」
「可愛いカフェ?」
ひかりは、政治には全く重要性を感じさせない、少しの可愛い雑貨を扱う小さなカフェの説明をガルドにした。
「これなら王家も、私を重要人物として見なくなると思うんです。可愛い物好きな特定のお客さんくらいしか利用しないと思うので、大繁盛もしないですし」
「それはそうだが、それでひかりはいいのか?」
ガルドは少し心配そうにひかりに確認した。
繁盛しない前提の店を作るのは、なんだか妙な感じだ。異世界の知識を使えば王都でも流行になる物が作れるのではないだろうか。
「もちろん。私は手芸が趣味だったので、自分の作品がお店で売れるなんて夢みたいですよ」
ひかりはふふっと嬉しそうに笑うので、ガルドは心配するのはやめて応援することにした。
「じゃあ次は、ひかりの店を新しく作れそうな土地選びだな」
ガルドは地図を机に広げた。




