どこに住もうか
「とにかく、まずは住処を見つけるところからだな。
騎士団の寮は、騎士、文官、医師や薬師、料理人や使用人達が住む棟に分かれている。そこから選ぶとしたら、騎士か文官か医療の棟だが…」
「でも、仕事をしないのに住んでいいんですか?寮に住むなら仕事をさせてください」
「うーん。なら、ひかりちゃんには文官の棟に住んでもらって、文官の手伝いをしてもらうのはどう?」
リサリアの提案に、ガルドは難しそうな顔をした。
「王家から教師が派遣されてくることを考慮しないといけないな。ひかりが騎士団の仕事に関わったら、王家は軍についてひかりを教育して、知識をもらおうと画策するんじゃないか?」
「あ〜アーノルド殿下あたりが、嬉々としてこっち来そうね」
「あの王子様ですか?どんな方なんですか?」
「文武両道の才媛で、若いのにすでに国政に関わっているお方よ。私の一つ下で学園の後輩だったの」
「ふぁ〜スゴイですね。来ないで欲しいです」
ひかりは速攻拒否した。
「だよなあ」
ガルドは苦笑しつつ、謁見にめちゃくちゃ緊張しまくってたひかりを思い出した。
「医療の棟も…ちょっと知識求められそうで…そうすると使用人と料理人の棟ですかね」
「いや、流石に異世界人を使用人として雇うのは、ちょっと体裁が悪すぎる。料理人は男しかいない。大飯食らいの団員達の料理を作り続ける体力が必要なんだ。そんなところにひかりを入れられない。」
ふーむ。意外と騎士団内で働くのが難しいな。
3人は何かないかと考えを捻る。
「騎士団寮以外の所はないんですか?」
砦は大きい。寮以外にも住む所がありそうだけど、ないんだろうか。
ガルドが思いついたように顔を上げた。
「あ、団員達が買い物をする商店が集まってる通りには、住まいと一緒に店を開いてる建物があるな」
「商店街があるんですか」
「そこに住んでるのは何かしら商売をしてるんだ。砦内には、ただ暮らすだけの住人はほぼいないんだよ。大体が、家族が何かしら騎士団に関わっている」
「そうなんですね。ちなみにどんな店があるんですか?」
「武器防具の店でしょ。本屋に雑貨屋、服屋にケーキ屋もあるわね。居酒屋なんかもあるわ」
「普通の商店街なんですね」
「王都の中心まで少し距離があるから、わざわざ行くのも面倒なのよね。呼び出しがあった時にすぐ戻れないのも困るじゃない?だから団員達が近くで楽しめる場が作られてるの」
「なるほど…でも商売しないと住めないんですよね?雇ってくれそうな所とかありますか?」
「うーん、人手不足の店あったかしら」
「通常は王都のギルドに求人情報を貼るから、私達は把握してないな」
「そうだ。ひかりちゃんがお店出しちゃえば良いんじゃない?開店準備中ですって書いとけば、そこに住んでても大丈夫でしょう?」
「私のお店ですか?」
リサリアの提案にひかりは戸惑った。
「ひかりちゃんは元いた世界で販売員の仕事もやった経験があるじゃない。何かやりたいお店はないの?」
やりたいお店と言われても。販売のバイトしてた程度だしな……。
「まあそれもありか。資金は国が出すから、潰れる心配もない。好きな店を出せば良いんじゃないか?店なら俺たちが入っても違和感ないしな」
「そうね!私達がひかりちゃんのお店に遊びに行けるなんて素敵!」
リサリアは楽しそうに目を輝かせた。
「でも、私は商品の仕入れ方もお店の経営方法も何も知りませんよ?流石に潰れないにしても、無理があるんじゃ…。」
「あら!それこそ好都合じゃない。王家の派遣教師に教わりましょうよ。ひかりはお店の経営の仕方を学べる上に、王家からは、教わるばかりのひかりには、引き出せる知識がないって判断されて監視が緩まるわ。」
「お、おお。スゴイ。リサリアさん賢い。」
ひかりはリサリアの案が、とても魅力的に感じた。
王家からの期待が薄まるのが特に良い。
「じゃあ早速、今日の午後に商店の通りで、土地の空きがあるか調べてみるか」
「あ、私は周りがどんなお店なのか、見てきていいですか?」
「ええ。一緒に行きましょ!」
「リサリアさんは、副団長のお仕事をしてください。いっぱい溜まってるんですよね?護衛は他の方にお願いします」
「そうだな。俺が護衛を用意する。リサリアは仕事をしろ」
「ううっ!」
リサリアは再び机に突っ伏した。




