言ってなかったっけ?
「ガルドさん、おはようございます」
「…おはようガルド」
「おはよう、ひかり。リサリアどうした?」
朝食のトレーを持って、ひかりはガルドの隣に座る。
リサリアのしょんぼりしている姿に、ひかりは困ったような笑みを浮かべている。
「ちょっと巣立ちの相談をしたら、子離れが難しいみたいで」
「なんて?」
「ガルドさん、私はリサリアさんの部屋から出て、一人暮らしをしたいと思うんです。何処か良い所を紹介していただけませんか?」
ザワワッ
食堂内が一瞬騒めいた。
「?」
ひかりは周りをキョロキョロする。
「ど、どうしたひかり。突然一人暮らしなんて…」
「いや、どうしたもこうしたも」
オロオロとガルドはひかりを見る。完全に、娘が自立して暮らす事に動揺しているパパだ。
リサリアがぐずるのは予想できたが、ガルドの動揺は予想外でひかりは困惑した。
「私は、もうすぐ三十路のいい大人です。いつまでも、リサリアさんの部屋に居候は出来ませんよ」
ザワザワワ!!!
「ちょっと待って!」
「ひかりちゃん、もう一回言って!」
「年下じゃないの!?」
「何歳って言った!?」
物凄いざわめきと共に、騎士団員たちは、ひかりに話しかけてきた。
「え?え?28歳です」
「嘘だああああああーーーー!!」
騎士団員たちの絶叫が、食堂内に轟いた。
「28……俺より8つ上…」
「俺の姉ちゃんより年上…?」
「え?ひかりちゃん、不老不死なの?」
「ハッ!おい!28歳って…団長と同い年では…」
「えっ!」
「マジか…」
この2人同い年……!?
並んで座ってるガルドとひかりに、視線が集まった。
「おい、なんだその視線は」
ガルドはギロリと団員たちを睨む。
「いっいやあ、団長もあんなに可愛がってたから…。団長はひかりちゃんの歳、知ってたんですか?」
「ああ、それは…」
ばちりとひかりと目が合う。
「知…………………ってたぞ……」
ゆっくり視線を外す団長に、ひかりの目が半目になっていく。
ーーーーあ、忘れてたなこれ。
騎士団員たちは察した。
「ん、んんっ。ひかり。詳しい話は、向こうで食べながら話そう」
ガルドは誤魔化すように咳払いをして、会食用の個室を指差した。
「はい。わかりました」
「リサリアも行くぞ」
「はぁい……」
いまだ復活しないリサリアと共に、3人は個室へ移動した。
個室は、内装もシンプルで8人ほどが座れるテーブル席があった。
食事を再開しつつ、ひかりは再び話し出す。
「えーとですね。一人暮らしすると言っても、すぐには難しいとは思うんです。
私は、この世界の常識が全くわからないので。
王城から派遣される先生にある程度教わったら、出て行こうと思ってます」
「う、ううう」
リサリアが、出ていくという言葉に傷付いている。
「あと、国からの保護って、どれくらいの支援がありますか?出ていくにも生活するにも、お金が必要ですし…。
国から仕事を斡旋してもらうのは、ちょっと怖いというか。
出来れば、ガルドさんたちに紹介していただけると安心かなって。」
「そんな危ないわ!急いで働かなくても!」
「リサリアさん。私は向こうの世界では、一人暮らしの会社員だったんです。
アルバイトで本屋、ケーキ屋、雑貨屋で販売員してた事もありました。喫茶店とレストランで、ウエイトレスもやった事あるんですよ」
「あああ、経験豊富〜ぅぅぅ」
ひかりの職歴を聞いて、打ちひしがれるリサリア。
少し生活に慣れたら、働けそうなのは明らかだ。
「リサリア、落ち着け」
呆れた様子でガルドは、2人のやり取りを見ていた。
「ひかり。国からは天寿を全うするまで、生活に困らない支援金が出る。だから、急いで仕事を見つけなくて大丈夫だ」
「えっ?一生?」
「そうだ。保護は最重要機密と言っただろう?生活苦で、知識を闇雲に売ってしまわないように生涯支援金が出る」
「じゃあ、そのお金をいただければ、すぐにでも出れますね」
「いやああああ!」
今月にも出て行きそうな雰囲気に、リサリアが絶望の声を出した。
「リサリアは、子離れ大変だな…」
「ママ、笑顔で見送ってくださいね」
「ううう…」
リサリアはテーブルに突っ伏した。




