甘えさせたい
「すみません。送ってもらっちゃって」
「休憩がてら散歩してただけだから、気にしないで」
ガルドは、もう暗いからと、ひかりを部屋まで送る事にした。
泣いた顔を笑って隠す彼女を、一人にしたくなかった。
二人は穏やかに話しながら、のんびりと歩いていく。
少し涼しい柔らかな風が吹き、月が夜道を照らしていた。
ーーーどうすれば、心を開いてくれるだろう?
泣き喚いたっていい状況なのに、ひかりは一人で隠れて泣く。
大丈夫と終わらせる。
頼れと言っても、一人で立ち向かう。
ひかりは人懐こく笑ってくれるが、一線が引かれていて、懐の中へ入れない。
なかなか懐かない猫のようだ。
甘えてほしい。頼ってほしい。
ーーーこの気持ちが届かなくて、もどかしい。
隣で歩いているひかりは、笑いながら話している。
簡単に触れられる距離にいるのに、触れられない。
「じゃあ、また明日」
「はい。おやすみなさい」
ひかりはぺこりとお辞儀して扉を開け、中へ入っていった。
まだ、心から信頼されていないのだろう。
焦って望めば、きっとひかりは心を隠して逃げてしまう。
受け入れてもらえるように、頑張るしかないな…。
ガルドは、ひかりが入っていった扉を見つめたあと、そっと目を伏せ、くるりと踵を返して執務室へ戻って行った。
ひかりはガルドに挨拶をして扉を閉め、鍵をかけてから、部屋の方へ振り向いた。
「ひかりちゃん…」
「んぎゃっ!?」
すぐ目の前にリサリアさんがいた。ドア開けた時いなかったよね!?
「ビ、ビックリした!怖いですよ、リサリアさん!」
「うわーん!ひかりちゃん、帰って来たら部屋にいないんだもの。心配したのよー!」
「あ、ああ…ごめんなさい。砦内をちょっと探検してました」
なんだかリサリアさん、情緒不安定だな?
ひかりは、泣きついてきたリサリアの背を優しく撫でた。
「うう、探検?」
「はい。ここで暮らすなら、砦のことをもっと知らなきゃなって思って」
ひかりは抱きついてきたリサリアから少し離れて、ジッと顔を見つめた。
「リサリアさん。私は、砦で暮らすことを決めました。だから、これからの生活をちゃんと話し合いたいです」
いつもと違う不穏な雰囲気を感じ取って、リサリアは口ごもる。
「……そ、それはそう。でも、まだひかりちゃんは、ここの生活に慣れてないわ…」
「はい。慣れるように学びます。ですからーー」
ひかりはリサリアに、ニッコリと笑いかけた。
「私は、この居候生活を終わらせようと思います。
砦で、私が暮らせそうな場所を教えてください」




