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異世界では小さいねと可愛がられてます  作者: とりとり


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33/104

紡がれる赤い糸 

砦に戻るともう夕方だった。

着替えを済ませ、夕食後にひかりは砦内を歩いていた。


「あれ?ひかりちゃん、どうしたの?副団長は?」


場内の見張りをしている騎士団員が、こんな時刻に1人で歩いているひかりに気づいて話しかけてきた。


「リサリアさんは、お仕事中です。私は砦内を探索してるんです。どこかオススメの場所あります?」


「うーん?ああ、そこを真っ直ぐ行った所に階段があってね。臨時の見張り台があるんだよ。景色が良くてね。休憩にはオススメだね」

「へー、外の景色ですか。行ってみます。ありがとうございます」

ひらひらと手を振って、ひかりは見張り台へ近づいて行った。


「よいしょよいしょ」


高めの階段をなんとか登り切ると、大きな赤い空と広大な街が見えた。


「わあ〜。すごい」


少し冷たい風が吹き、髪や服がパタパタとたなびく。


ひかりは、風を受けながらじっと空を見つめた。

夕日が少しずつ沈んでいき、緩やかに闇をつれてくる。


お父さんとお母さん、悲しんじゃうかなあ……


夕方、両親と手を繋いで、一緒に歩いた日を思い出した。


大人になると、両親とは淡々とした付き合いだった。それでも、体調を気遣ってくれたり、たまには連絡しろと言われていた。


地元を少し離れ、一人暮らしをした。

結婚する子も増えて、深い付き合いの友達はいなかった。


仕事は長く出来ればいいかなと思う程度で、仕事仲間とも深く関わらなかった。


恋人も親友もいない。縁の薄い人生だった。

それでも、家族や繋がりのあった人は、突然消えたひかりを心配するだろう。


「お母さん達、あまり悲しまないでほしいなあ…」


こんな出来事どうしようもない。

恨むとしたら神様だろうか?

そんな恨みは苦しいだけで続かない。

諦めるしかない。


泣き声を出すことすらできない。

弱さを、誰にも知られたくなかった。


空はすっかり暗くなり、星が煌めいている。

この空も、向こうの世界には繋がっていない。

全て、見たこともない星なんだろう。


瞬きせずとも涙が頬を伝う。

今だけ、好きなだけ泣けばいいーーー


風が吹き、髪がたなびく。


自分の身体に繋がっていた縁が、ふつりふつりと切れていくのを感じた。



ーーー



どれくらいいただろうか。

ひかりは、両手で顔を押さえると大きく深呼吸した。


新しい生活に目を向けねば。

悲しいけれど、前を向かなきゃ。


ひかりは見張り台を降りていく。


「ひかり?」

「あ、ガルドさん」


ちょうど階段を降りてきた時に、ガルドがこちらに向かっていた。


「こんな所でどうした?」

「散歩してました。オススメスポットだって教えてもらったんで見てたんです。景色綺麗でした」

「ああ、ひかりも知ったのか。良いよなココ。俺も息抜きによく来るんだ」


ガルドがひかりの顔を見て、涙の跡があるのに気付いた。


「……どうした?」


静かに優しい声で話しながら、ひかりの頬をスッと触り、目元を撫でた。


「!?!?」


ひかりは驚愕して固まり、その顔にガルドは目を見開き、自分のやった事に気付いてパッと手を離した。


「すまない!ついうっかり!」

「え…うっかりこんなことするんですか」


ガルドさん、とんだプレイボーイじゃないか。

ひかりは胡乱な顔をしてガルドを見る。


「ち、違う!子供が泣いた時の対応をついうっかり!」

「誰が子供ですか」


どのみち失言だった。


「全くもう。気軽に女性に触っちゃダメなんですよ」

「あ、ああ。すまない。」


ぺこりと謝るガルドをひかりはふんすと鼻息荒く見た。


「…大丈夫か?」

「………大丈夫ですよ」

じっと見つめるガルドにクスリとひかりは笑った。


「大丈夫じゃなかった時は、聞いてもらって良いですか?」

「もちろん。いつでも聞くぞ」

「ふふ…ありがとうございます」


縁は、新たに紡がれる。

ひかりの心は、ほんのり温かかった。



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