子猫は人に戻ります
馬車は砦への道を走り出す。
車内では誰も口を開かず、3人は静かに座っていた。
「………あのな…ひかり」
「…はい」
「何でそんなに見てくるんだ?」
今日は、ずっとひかりと目が合わなかった。
今はひかりに凝視されていて、ガルドは困惑していた。
「疲れた心をイケメンで癒してるんです。気にしないでください」
「イケメン?」
「かっこいい男性って意味です」
「えっ」
「ねえねえ、ひかりちゃん。私は?」
「大変麗しいです。浄化されます。ありがとうございます」
「うふふ」
満足そうにリサリアは笑っている。
ガルドは、訳がわからなかった。
不意にひかりは、深々とお辞儀をしてきた。
「ーーーガルドさん、リサリアさん。この先、ご迷惑お掛けする事が多々あると思いますが、これからもどうぞよろしくお願いします」
決意のこもった挨拶に、2人はすぐに声が出なかった。
「っ、こちらこそよろしく頼む。ひかりはもう騎士団の一員なんだ。何かあったら、すぐ相談するんだぞ。一人で抱え込まないでくれ」
「そうよ!ずっと一緒にいましょうね!」
「〜〜〜〜〜っ!」
ひかりは、耐えきれずに両手で顔を押さえて俯いた。
とびきりの美青年と麗人が、優しくひかりに一緒にいようと話してくれる。
夢のようなひととき。どこにお金払えばいいですか?
「もーーー!何でそんなにかっこいいんですか。何なんですか、この世界に写真てあります?」
「しゃしん?」
「無いですよね〜。あぁ〜記憶に刻み込んでおきます。ありがとうございます」
いつどこでも瞬時に思い出せるように、脳に刻んでおこう。帰ったら紙に記録もしようと心に誓った。
「ひかりちゃん、なんか変わったわね?」
「すみません。これが素です。猫被ってました」
「あら、可愛い猫ちゃんだったわ」
「リサリアさんの包容力、半端ないですね」
顔を上げたひかりは、ふにゃりと笑う。
「長く暮らすなら…猫を被ってると苦しいので、もうやめます」
その言葉にガルドは心が切なくなりつつも、ふっと笑った。
「ああ、そのままのひかりがいい」
落ち着いた低いイケメンボイスで、切ない表情をする。長髪を一つに結んだ白い騎士服姿の美青年。
背景にはキラキラのエフェクトが見える。眩しくて召されそう。
「本当にそういうの良くないと思います」
「え?!」
「ガルド、油断も隙もないわね」
「なにが?!」
唸りながら再び手で顔を覆ったひかりに、リサリアはヨシヨシと頭を撫でていた。




