うちの子 わかりやすいなあ
「ふむ。では、この国についての勉強ですが……。この世界と、ひかり嬢の世界の学力の違いが分かりませんからな。どのあたりのものがよろしいか」
「それなら、子供向けの絵本あたりからお願いします」
「絵本? 読み書きからということですか?」
「はい。それと、この国の人間なら、子供でも当然知っている常識などが知りたいです。私は、本当に何も知らないので」
「ふむ……なるほど。では、子供用の教材をまずお送りすることにしましょう。教師も派遣しますので、分からないことはその者に何でも聞いてください」
「ありがとうございます」
ひかりは、嬉しそうに笑っていた。
先ほどの謁見が嘘のように、ひかりは明るく穏やかだった。
「ではこれで。エッセン団長も、もうすぐこちらに来るでしょう」
「分かりました。今後とも、どうぞよろしくお願いします」
ひかりが丁寧にお辞儀をすると、宰相は頷いて去って行った。
ーーその頃、謁見が終わり、高位貴族の当主達はそれぞれの仕事に戻ろうとしていた。
「ガルド、久しぶりだね」
「父上、ご無沙汰しております」
にこやかにガルドのところへ来たのは、ガルドの父親、レオルド・エッセン辺境伯だった。
「ひかり嬢は繊細な子らしいけど、騎士団は苦労はしてないかい?」
身体は大きく、髪も目も同じ色合いで、一目で親子とわかる。だが、雰囲気が全く違うのはこの笑顔のせいだろう。
言葉も柔らかく、戦場で鬼神の如く敵を叩き潰しているとは思えない柔和さだった。
「いいえ、彼女は強い。真面目で優しくて、騎士団はひかりの護衛争奪戦になってますよ」
ガルドは肩をすくめて、父親にだけ真実を伝えた。
ひかりは脆い。だが、強さも兼ね備えていた。
一緒に生活していれば嫌でもわかる。知識についての弱音以外、彼女はずっと1人で立ち向かっていた。
今回の謁見ですらーーーガルド達の手を借りていない。
レオルドは、じっとガルドを見つめた。
「うちが後見をした方がいいかい?」
「………そうですね。でも、いつかそれだけじゃ足りなくなるかもしれません」
「ハハッ、そうか。そこまでか。うん。いいよ。後見になってあげる」
顎に手をやり、考えるように頷くガルドにあっさり承諾するレオルド。
「しっかりやりなよ。周りに気付かれる前に」
「え?」
ガルドがレオルドを見ると、そこにいたのは当主ではなく父親の顔だった。
「ガルドも、そんな顔するようになったんだねえ。頑張りなさいな」
「そんな顔……?」
「じゃあね」と手を振り、レオルドはガルドから離れて行った。
ガルドは少し考えた後、気まずい表情を浮かべながら、ひかりたちの元へ戻って行った。
宰相と別れた後、ひかりとリサリアはそのままガルドを待っていた。
「…………リサリアさん、これで終わりですか?」
「そうね。ガルドが来たら砦に戻りましょう」
「はあああ〜〜……」
ひかりは大きなため息を吐き、仕事モードの姿勢を解いて力を抜いた。
ちらりとリサリアを見る。
「ママ、お家に早く帰りたいです」
上目遣いに潤んだ瞳で見つめてくるひかりに、リサリアはドキュンと胸を打ち抜かれた。
「そうね! 早く帰りましょ!」
ひかりの手をとって、さっさと馬車へ向かおうとするリサリア。そこへちょうどガルドが歩いてきた。
「おい! 俺を置いて行くな!」
「あら、ガルド。帰るわよ」
リサリアは何でもないことのように声をかけた。




