かーわーいーいー!
(か…かわいいーーーー!!)
副団長リサリアは、震える小動物のような少年を見ながら感動していた。
団長ガルドはそんなリサリアの様子に気付き、内心呆れつつも少年をそっと観察した。
敵意も悪意も全く感じられず、迷子の子供にしか見えない。
異質なのは、見たことがない上質な布地の服と手入れがされた手足、艶やかな髪。
明らかにこの国の平民ではない。
「……どこの国から来たの?」
リサリアの柔らかい声が、ひかりを徐々に落ち着かせてくれた。おずおずと答える。
「に、日本……です……」
その国名を聞いた瞬間、リサリアもガルドもまさかと驚いた。
聞いたこともない国名に、服装と佇まい。
――この子は異世界から来た?ーーー
この世界では「異世界人がどこからか現れる」と昔からおとぎ話のように伝えられていた。
この少年はその伝承の通り、突然現れた。
ガルドは小さく息を吐き、目の前の小さな異質な存在を見る。
リサリアは優しく落ち着いた声で告げた。
「ここは、あなたにとっては別の世界かもしれないわ。あなたは……異世界人?」
布団で寝ようとしていただけだったのに。
ひかりは、別に世界と言われて頭の中が真っ白になる。
身体が無意識に小刻みに震え、恐怖と混乱が一気に押し寄せる。
思わず後ろに下がろうとした瞬間、リサリアがひかりに抱きついた。
「ぎゃ!?」
「大丈夫よ!私が守るから!」
母性が爆発したリサリアは、ひかりの頭を優しく撫でながら安心させるように抱きしめる。
騎士団の面々もざわめき、興奮を隠せない。
「……異世界人だって…!」
「小さくて可愛いな…!」
「一体どこから来たんだ…?」
団員達がヒソヒソと囁きながらも、ひかりから目を離せない。
ガルドは団員達に大声で指示を出し、リサリアに話しかける。
「今日は演習を中止だ!リサリア、執務室で話をしよう」
「そうね!静かな場所で、落ち着いてお話ししましょ!」
リサリアは、にこやかにひかりの前にしゃがむとひょいと抱き上げた。
「ええっ!?じ、自分で歩けます!」
ひかりは女性に軽々抱っこされた事に驚愕した。
「あら、裸足じゃない。石で怪我をしたら大変よ!」
リサリアは楽しそうに言い、ひかりを抱えたまま歩こうとする。
ひかりは必死に手足をばたつかせるが、びくともせずスタスタと歩き出す。
「えええええ?!」
リサリアは笑顔のまま、ひかりの反応も気にせず、ルンルンで抱っこしたまま執務室へ向かった。
ひかりは困惑しきりで、ただ体を小さくして抱かれるしかなかった。
騎士団の面々はその光景を気の毒そうに見ていた。
「副団長の毒牙にかかったウサギみたいだな……」
「可哀想に…」
誰もが、ただ見守るだけだった。
小さな異世界人に向けて溢れるリサリア副団長の母性に、誰も口を挟むことなど出来なかった。
ガルドはひかりの慌てる姿は、か弱い動物のようだと見つめながら、リサリアの後をゆっくり歩いた。




