未来は続く
オルヴァン王は、ひかりを労るように優しく声をかけた。
「ひかり、この世界にそなたの居場所は必ず作れる。未来はまだ続いているのだ。希望を持って欲しい」
「ーーーありがとうございます」
にこやかにお礼を言うと、それ以上ひかりは声を上げることは無かった。
表情から読み解けるものは、何も無かった。
涙も流さず、ただ静かにそこにいた。
アーノルド王子は、そんなひかりの瞳を見て気付く。
異世界人は自分達と同じ人間で、彼女は全てを失ったのだと。親も友も、今までの人生で得たものは、全て二度と手にするができないのだ。
希望を込めて自分達と対峙したのに、どれほどの絶望だろう。
華奢な身体で、たった一人で、涙も流さず真っ直ぐにこの世界を見つめている。
若いアーノルド王子には、かける言葉が見つからなかった。
「ーーもう下がってよい。これからの暮らしについては、宰相と話してくれ」
「はい。ありがとうございます」
ひかりはお辞儀をして、リサリアと共に扉へ静かに歩いて行った。
謁見の間には、重苦しい空気だけが残った。
異世界人の残酷な真実を目の当たりにした者達は、何も発することが出来なかった。
「エッセン団長」
「はっ」
オルヴァン王の呼び掛けで、ガルドは玉座の前まで行き、礼をとる。
「砦で、ひかりの支えになっている者は誰か?」
「本日の護衛をしていたロズウィータ副団長でございます」
「では、ひかりに細心の注意を払うよう伝えよ。異世界人は、確かにこの世界で人生を全うしているが、自ら命を絶った者もいた」
「……っ!」
「……記録を追うだけでは、わからぬものだ。あんな瞳をした者が、虐げられれば破滅を選ぶのも理解できる。運命を呪い、国を道連れにしたのだろう」
オルヴァン王は古い記録を思い返した。
ーー異世界人は川に涙を落とすと、周りの命と共に泡のように消えたーー
「こんな世界は消えてしまえ」
絶望で、悲しみの涙を流すひかりを想像してしまう。
ガルドは、強く拳を握り締めた。
「陛下、ひかり嬢はとても繊細なお方で、争い事には不向きでございます。我ら騎士団が全身全霊をもって、彼女をお守りいたします」
「そうか……頼んだぞ」
「仰せのままに」
ガルドは背筋を伸ばしたまま、深く頭を下げた。
オルヴァン王は、チラリと貴族達の方に視線を向けた。
「他の者たちも、ひかりに手を出すでない。年若いがゆえに、あまりにも危うい。今は、この世界に落ち着かせることが最優先だ」
「仰せのままに」
オルヴァン王の言葉に貴族達は一斉に頭を下げ、静かに答える。
重々しく、幾重にも重なる声が謁見の間に響いた。




