知りたかったこと
「陛下、発言をよろしいでしょうか」
「赦す」
スッとオルヴァン王の斜め後ろにいた、煌びやかな青年が声をかけた。
「ひかり嬢には、この国について学んでもらうのはいかがでしょう。
祝福を授かるには、この国のことを知ってもらうのが一番だと思うのです」
うへえ…胡散くさ。
王族が望む勉強なんて、面倒事しかなさそうだ。
ひかりは穏やかな表情で、キラキラ美男子の提案を聞きながら、内心ウンザリしていた。
「そうだな。よく知らないと申していたし、ちょうど良い。ひかり、これは第一王子アーノルドだ。アーノルドから国について教えてもらうと良い」
「ありがとうございます。ですが、王子殿下の手を煩わせるのは申し訳が立ちません」
「ふふふ、気にしないで。私も異世界人と親交を深めたいだけなんだ」
「まあ……」
あはは、うふふと笑いながら、ビシバシと腹の探り合いが起きていた。
「勉強には時間がかかるでしょうし、王城に住まいを移しませんか?毎日、教えることが出来ますよ」
アーノルド王子は、にこやかに囲い込もうとしてくる。
ひかりは眉を下げて、申し訳なさそうにしながら笑顔で返す。
「申し訳ありません。私は、騎士団の砦に戻りたいのです。この世界へ落ちた時に、初めて守っていただいた騎士団員の方々の側を離れるのは、どうしても不安なのです」
ーーー面白いな、異世界人。
アーノルドはこの見た目のために、にこやかにお願いすれば大概の女性はポーッとし、同意を得られていた。
しかし、ひかりはスパッと拒絶してくる。地位や名声を一切欲しない彼女に、アーノルドは興味を持った。
「アーノルド、無理に引き留めるでない。では、ひかりが砦で学べるように手配しよう」
「…ありがとうございます」
ひかりは、これ以上は無理かと諦めた。
勉強は国の内情をぶっ込んでこられたら、わからないふりをすればいいか…。
国政的な勉強は全くする気がないので、話を切り上げた。
そして、最後の最後に、ひかりはずっと後回しにしていた質問をした。
「陛下、異世界人のことは王家が一番詳しいと伺いました。一つだけ知りたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
オルヴァン王は、少し考えながらも促した。
「ふむ。何かな?」
「ーーー異世界人は、他の世界に再び消えることはありましたか?」
シン……と静まり返った。
オルヴァン王を真っ直ぐに見つめるひかりの黒い瞳には、僅かな懇願が見えた。
オルヴァン王は憐憫の気持ちを持ちながら、言葉を紡ぐ。
「いや、無い。全ての異世界人は、この世界で人生をまっとうした」
ひかりの瞳から、希望が消えた。
…………あーぁ……
薄々感じていた現実を突きつけられてしまった。
向こうの世界のひかりの人生は、終わったのだ。




