笑顔で善処します
謁見が始まるまで、控え室で待機させられていた。
王城への着く頃には、ガルドの騎士服姿も五秒くらいは直視出来るようになっていた。
「はぁ〜緊張します」
「大丈夫。私が側にいるから」
「はぁ〜カッコいいです。素敵です」
リサリアが優しく微笑み、背に手を添える。
「俺も謁見の場に参加するから、何かあったらこちらを見て合図してくれ。すぐ助ける」
「はぁ〜その格好でそういう事言うの、やめてもらっていいですか」
「ひかり、なんか性格変わってないか?」
緊張のあまり、ひかりの会話がポンコツになっている。
緊張で落ち着かずソワソワしてると、近衛がひかりたちの元へやって来た。
「陛下がいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
「うあ〜、とうとうきちゃった。緊張するよ〜あああああ」
ひかりは頭を抱えている。敬語もすっ飛んでいた。
「ひかり、大丈夫だからな。じゃあ、俺は先に行っている。リサリア、任せたぞ」
「ええ、また後で」
「はい〜」
ガルドと別れて、リサリアとひかりは謁見の間に案内される。大きな扉が開くのを待つ。
ひかりは、ギュウと手を握りしめる。
大丈夫。大勢の前でプレゼンする時みたいだと考えればいい。そう、これは仕事だ
向こうの世界で、仕事で緊張する時にはいつもしていた深呼吸をして、仕事モードを思い出す。
ひかりは、背筋を伸ばした。
ーーーもう逃げられない。
扉が開かれる。決意を持って、一歩踏み出した。
リサリアが先に歩き、ひかりはその後ろをついて行く。
「おや…?」
オルヴァン王や王族、高位貴族の当主達も、ひかりの堂々とした姿に目をやる。
ガルドもさっきのオドオドしてた姿から、様変わりしているひかりに驚いていた。
ひかりは首まで詰まった深い蒼のドレスを着ていた。
銀糸の刺繍がオーガンジーの布越しに浮かび上がり、直線的な仕立てが全体を落ち着かせている。
髪には月長石と真珠を連ねた飾りがあり、神秘的な雰囲気を添えていた。
一見、少女のように見えるが、瞳には知性の年輪が静かに刻まれていた。
リサリアには、いままでの大人びた化粧とは違い、あえて薄めにして頼りなく幼げに見えるように施してもらった。
変に期待されたくなかったからだったのだが、その装いはかえって底知れぬ雰囲気を強め、ひかりは明らかにこの場では異質な存在に感じられた。
「少女だと聞いていたが、妙齢の女性ではないのか?」
「堂々としておりますな。品もある。本当に庶民なので?」
密やかに貴族たちは異世界人の見定めをしていた。
この娘は、我らの利になるのか、それともーーー?
「其方が異世界人か。名はなんと申す」
オルヴァン王の威厳のある声が響いた。
グッとひかりは目に力を入れた。
「はい。桜ひかりと申します」
背筋を伸ばし物怖じせず答える姿に、オルヴァン王は好感を持った。
「さくら・ひかり。我が国によく来てくれた。この世界では、異世界人が落ちた国は保護と自由を与える不文律がある。
ーーー我が国が最大の保護を与える。望みの暮らしを宰相に伝えるといい」
「ありがとうございます」
ひかりはスッとお辞儀をした。
「異世界人には、この世界にはない知識を持っていると聞く。我が国の発展の為、その知識を授けてくれぬだろうか。民の暮らしが、更により良くなるであろう」
オルヴァン王は、優しい瞳でひかりを見た。
その言葉には色んな意味が含まれているなんて、ただの平民だったらわからなかっただろう。
「ーー私は、あちらの世界ではただの庶民でした。
この世界を変える程の知識は、持ち合わせていないでしょう。
まだこの国の事もほとんど知らない状況なので、何を伝えるのが最善かもわかりません。
それでも国民の為になる事があるのでしたら、僅かな事でも貢献出来たらと思っております。
ーーー暮らしに慣れるまで、お待ちになっていただけますでしょうか」
目を逸らさず、にこやかにひかりは話す。
日本人特有の得意技「また今度」だ。
自由をくれるんでしょ?無理に聞かないで。
国民として、もしかしたら知識を出すかもね。
ひかりの結論は出ていた。
王族も貴族も、たった一人でこの世界に落とされた平民の少女など、丸め込むのは造作もないと心のどこかで思っていた。
だが、実際の異世界人を見て、考えを改めるしかなかった。
少女のような姿なのに、瞳が、言葉が、見透かすようにこちらに向かっていた。
ーーー害をなしたら破滅を渡すーーー
それが真実なのかも知れないと思わせていた。




