心配性なパパ
数日ゆっくり休んで、ひかりは回復した。
王城へ向かう日は、もう明日になっていた。
食堂でひかりは朝食を持って、トコトコとガルドのいる席へ近づいていった。
リサリアと一緒にガルドの隣に座るのが、すっかり日常になっている。
「ガルドさん、おはようございます」
「おはよう。ひかり、身体は大丈夫か?
明日の謁見は、延期でも良いんだぞ」
「すっかり良くなったので大丈夫ですよ。それに、謁見の予定を変えるなんて大変じゃないですか」
心配そうなガルドに、ひかりは苦笑する。
むしろ、国のそうそうたるメンバーに会う予定なんて、さっさと終わらせたい。
「体調が悪くなったら、すぐに言うんだぞ。良いね?」
「そうよ。ひかりちゃん、無理しちゃダメだからね」
「はい」
初めてのお出かけに心配する、パパとママが出来上がっていた。
「家族になっとるな」
「娘が可愛くて仕方ないパパだな」
「方向性、そっちで良いのかね」
騎士団員たちは、団長に残念そうな視線をよこしていた。
「ガルドさん、王様ってどんな方なんですか?」
怖そうな人だったら嫌だなあ。なにを言われるんだろう。私、ちゃんと答えられるかな。
「オルヴァン陛下は、賢王と呼ばれている思慮深く賢い方だ。
先王の時代では戦が何度も起きていたんだ。今代の王になって、周辺の国と良好の関係を築けている。
王妃様を大事になさっていて、家族思いでもあるな」
「いい王様なんですね」
ガルドは、肉がゴロゴロ入った野菜スープを食べる。他の団員と同じように、彼も朝からたくさん食べている。
ふんふんと頷きながら、ひかりはパンをちぎる。
何故かひかりのパンは、ウサギの形をしていた。
団員たちと同じメニューの量を減らすだけでいいはずなのだが、専用特別メニューが今も続いていた。野菜スープのお肉も小さく切られている。
「えーと、高位貴族ってのは、どんな方たちなんでしょうか」
物語ではよく「雲の上の人」のように表現されているが、実際は何をしている人達か全くピンとこない。
「明日は二つの公爵、四つの侯爵、辺境伯の当主が来る。
公爵は、王妃様のご実家であるレオンハルト公爵と、陛下の弟であるアーデルハイド公爵だ。
四人の侯爵は、宰相のヴァルシュタイン侯爵、法を司る司法卿のグラーツ侯爵、外交を担う外務卿のロズヴィータ侯爵、内政を統べる内務卿のハルベルク侯爵だ。
そして辺境伯は、国境の防衛と隣国との交渉を任されるエッセン辺境伯だよ」
「はあ〜すごい人たちなんですね…」
確かに「雲の上の人」だ。私が明日会うなんて意味がわからない。……本当に会うの?嘘でしょ?
「ロズウィータ侯爵はリサリアの父親で、エッセン辺境伯は俺の父親だ。外交でよく親が会っていたから、俺とリサリアも子供の頃から会っているんだ」
「みんな、私とガルドをよく知ってるおじ様たちなの。悪い人じゃないわ。そんなに怖がらなくて大丈夫よ」
リサリアは、上品に野菜スープをひと匙すくって口にする。所作がとても綺麗だった。
「ひえ。二人ともすごい貴族の人だったんですね。騎士団の人たちって貴族なんですか?」
「いや、貴族も平民もいる。実力主義で、ここでは貴族階級は関係ない。戦場でそんな事やってたら、負けるからな。俺が許していないんだ」
なんか、ゲームの世界みたいだ。すごいなあ。
本当に私は明日会うの?既にものすごく行きたくない。政治に権力や名声って、絶対面倒そう。
……雨天中止とかないかなあ。
ひかりは遠い目をしながら、ピンク色の可愛いカップに入ったミルクティーを飲んだ。




