ひとりじゃない
ひかりはインドアで、ハンドメイドの他に読書も好きだった。
書籍もネット小説も沢山読んでいた。歴史に推理、冒険、ファンタジーも好きだった。
書籍に関連した漫画や映画、アニメも見ていたし、ゲームもやっていた。異世界転移ものなんて普通にあった。
社会人になってからは、仕事や一人暮らしに慣れるのに忙しく、そういうものから少し離れていた。だが、知っているのだ。戦争とは、殺戮とは。
私は知識を持っている…?
よくあるフィクションの話だったとしても、それはこの世界では、誰でも想像出来るものなのか。
本でしか知識を得られないこの世界では、想像もできない残忍な方法をいくつも話せるなんて、特殊なのではないか?
実際あった話は……実現させようとするのでは……?
身体の体温が、下がっていくようだった。
「ひかりちゃん!?大丈夫?顔色が悪いわ!」
リサリアの声に、ハッと我に返った。
「あ…あの…」
視点が定まらない。どうすればいいかわからない。息がうまく出来ない。
王様に聞かれたって言わなければいい。
秘密にして隠し続ければいい。囲われて色んな人が教えろと言ってきたって、知らないと言って逃げ続ければーーー
………ひとりで……ずっと………?
終わりが見えない、長い孤独がひかりにまとわりついてくる。
「ひかり!」
大きな声で呼ばれ、ひかりは意識が現実に戻った。
リサリアがひかりを抱き締め、背中を優しくさすっていた。
「落ち着いて。大丈夫よ。ゆっくり息を吸いなさい。大丈夫。大丈夫よ」
その温もりと柔らかな声に、少しずつ落ち着いていった。
強張っていた身体も力が抜け、呼吸も普通に出来るようになった。
少し疲れていたが、リサリアに寄りかかっていた身を起こした。
「ごめんなさい……。もう大丈夫……」
「ひかり、部屋に戻ろう。少し休んだ方が良い」
コクンと頷いて席を立つ。
歩こうとしたが、ガルドにヒョイと抱き上げられた。
「うわっ!?」
「すぐに部屋に着くからな」
急に視界が高くなって、ひかりはガルドの首にしがみつく。
ガルドは、ひかりを子供のように抱っこをしてスタスタと歩いていった。
「歩けます! 重いですから!」
「全く重くない。大人しくしていてくれ」
ひかりの言葉を軽くスルーして、ガルドは一階まで階段を降りていく。
「ぎゃあ階段無理! 揺れる! ひいぃ!」
大人になって抱っこされると、こんなに怖いのか!
様々な事故が想像できる。さっきとは違う恐怖で、ひかりはガルドにしがみついていた。
ガルドがひかりを抱っこしながら、リサリアの居室までの道をスタスタ歩く。
騎士団員たちは、そんな姿を見て目を丸くしていた。
「なんだ、ひかりちゃん。団長に抱っこされてるのか。良かったねえ」
「すっかり団長に懐いて」
老齢の騎士二人は、まるで親に抱き抱えられる子供のような光景に、微笑ましいものを見たとニコニコしていた。
それ合ってる?
他の団員たちは首を傾げた。
しかし、「大人に抱っこされる子供」という表現が確かにピッタリの2人だった。
「ち、ちが…」
「具合悪いみたいなんだ」
そうガルドが答えると、横を通り過ぎていく。
ひかりは、もう何が何だかわからなくなっていた。
部屋に着き、ひかりはベッドに降ろされた。
有難いのだけれど、なんだか複雑な気持ちだった。
ガルドは膝をつき、ひかりの顔を覗き込む。
「ひかり。もし誰にも話せないことがあるなら、俺が聞く。誰にも話さない。剣に誓う。
ーーだから、ひとりで抱え込まなくていい。」
真剣な目で語るガルドに、ひかりは目を見開いた。
唇が震え、涙が溢れそうになる。
「ありがとう、ございます」
お礼を言うのが精一杯だった。
「ひかりちゃん、もちろん私も聞くわ。絶対に秘密を守ると誓う。あなたはひとりじゃないの。」
リサリアの言葉に、ボロボロと涙が止まらなかった。
「う、うう……うううっ……」
ーーーー静かに、二人はひかりを見守っていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
明日からは、毎日夜21時頃の更新になります。




