それぞれの応援
無事演習が終わり、夕食の頃には演習の騒ぎもすっかり落ち着いていた。
ひかりは、バッチリ施していた化粧を落とした。
服装もドレスから、動きやすいシンプルなブラウスとロングスカートに着替えていた。
「あれ?ひかりちゃん、子供に戻ってる」
「今も昔も大人ですよ」
トレーを持って席へ行こうと、ちょこちょこ動いてたひかりに女性騎士たちが話しかけてきた。
「さっきの副団長、凄かったね。私たちもひかりちゃん守るから、何かあったら助けを呼んでね!」
「ありがとうございます…!」
なんて優しいお姉様方(多分ひかりの方が年上)なんだ…!
ジーンと感動に打ち震えた。
ひかりは庇護欲をくすぐられる見た目に、子供ではないとわかって嫉妬の対象になってもおかしくなかった。
だが、見た目に反してひかりは甘えることがなかった。
謙虚で礼儀正しく、一生懸命生活に慣れようと頑張る姿に、女性騎士たちは好感を持っていた。
「皆、優しくて良い人達です」
ニコニコしながらリサリアとガルドにこの話をしつつ、食事をしていた。
食事は少食のひかりの為に専用メニューが用意されており、お皿もかわいい花模様の容器に変わっていた。
この調子だと、いつかスプーンやフォークもひかり専用が用意されそうだ。厨房もひかりに大概甘かった。
「そうね。女性騎士たちは、みんなひかりちゃんの味方よ」
「あ、ああ。そうだな。何かあったら遠慮せず頼るといい」
リサリアはニッコリ笑い、ガルドは笑顔が引き攣っている。
「小姑が増えてる…」
「難易度、跳ね上がってるぞ」
周りの男性騎士は、ガルドを気の毒そうに見ていた。
日もすっかり落ち、夜の静けさが広がっていた。
ガルドは執務室で仕事をしていると、扉をノックする音が響いた。
「団長、王城から書状が届きました」
「入れ」
シリウスは静かに礼をすると、ガルドの前に書類を差し出した。
「王城から謁見の許可が出ました。5日後に向かう事になります」
「そうか。団員達にも準備をさせよう。…ひかりにも伝えないとな」
「ひかりさんは、随分と女性陣に好かれてるようですね。頑張ってください。応援してますよ」
ガルドは書状から目を離し、チラリとシリウスを見た。
シリウスは、恋する弟を微笑ましく見守る兄のような眼差しをしている。
長年、仕事ではよく助けてもらっているシリウスに、ガルドはつい弱音を吐いた。
「…どうすればいいか、わからないんだ」
恋心に戸惑う少年のような悩みに、クスクスとシリウスは笑う。
「戦場で百戦錬磨の団長も好いた女性には弱いですねえ」
「うるさいな」
ムウッと不貞腐れるガルド。
「ひかりさんにとって、王城は全てが初めての経験になるでしょう。しっかり支えてあげてください。
貴族達の我欲から守ることは、次期辺境伯の団長にしか出来ませんよ」
「……ああ、わかっている」
「では、失礼します」
静かに礼をして、シリウスは部屋から出て行った。
パタンとドアが閉まるのを見つめたまま、ガルドは背もたれに寄り掛かり力を抜く。
謁見により、ひかりの周辺がどう変わるかーーー
深く静かに思索を巡らせていた。




