鉄壁のママ
「凄かったな…」
「うん…」
「俺達が手に出来るような相手じゃないんだな…」
ボロボロの団員達は、ガルド達の壮絶な戦いを見てしょんぼりしていた。手も足も出ないとは、このことだった。
「お前ら、こんな単純な罠に引っ掛かっとるなんて、呆れたぞ。ちょっと考えればわかるだろうに」
「明日から、しごき倒される事を覚悟しておけよ」
老齢の騎士達が残念な顔で見てくる。
「ええええっ…」
「ウソだろ…」
騎士達はひかりの事は諦めざるを得なかった。
恋慕するというなら、雛を命懸けで護る、獰猛な魔獣みたいなリサリアを相手にするのだ。無理だ。
どんな相手もぶちのめしていきそうだ。実際、団長がやられている。
今、ひかりの側に鉄壁のママが誕生した瞬間だった。
剣闘場に静寂が訪れる。
若手達は土に突っ伏し、先輩騎士達はただ肩を竦め、観覧席にいた女性騎士達は、ニヤニヤしながら見ていた。
「これでわかったでしょ。あの子に手を出したら、命がいくつあっても足りないって」
「ほんとほんと。わざわざ団長達が2人だけで組んだ意味、考えもしなかったのかしら」
演習に参加しなかった団員達は、あの2人が重要な護衛をこんなやり方で決めるとは思わなかった。ひかりへのリサリアの過保護振りを見たら、絶対に裏があると確信していた。
まさか最終目的がひかりに相応しい伴侶か選別する為とは思わなかったが。
リサリアは剣を収め、ひかりのもとへ歩み寄る。その表情は戦いのときの猛獣の顔から一変して、母が我が子を抱くような穏やかさを宿していた。
「怖くなかった?」
そっと問いかける声に、ひかりは興奮した様子で拍手を送る。貴賓席からは、戦ってる2人の会話がよく聞こえておらず、純粋に褒めていた。
「リサリアさん、すごい!強い!かっこいい!」
「フッ…フフフ、とても勇ましかったですね…ククッ」
シリウス室長は、会話を読み取っていたようで、手で口を押さえて笑いを堪えて褒めている。期待以上の面白さだったようだ。
「うふふ、ひかりちゃんに良い所を見せたくて、頑張っちゃった」
そんな彼を気にする事なく、リサリアは良い笑顔を見せていた。
騎士団員の誰もが思った。
ガルド団長よりも、もしかしたらリサリア副団長の方が恐ろしいのではないか、と。
ガルドは折れた剣を拾いながら、完全にリサリアに懐いてるひかりの姿を見た。
…あの魔獣みたいな母親から、ひかりを勝ち取らなきゃならんのか。
ガルドは、難易度の高さに頭を抱えた。