最強は誰
「さあ、始めるぞ!」
ガルドとリサリアは剣を手に、剣闘場の中心へ歩み出た。
数十人の若手騎士たちが参加し、3つの組に分かれていた。
熟練の騎士や女性騎士は、参加していなかった。
「団体戦の後に個人戦なんて、流石に不利だわ」
「……あいつらバカだねえ」
のんびり見学している女性騎士たちは、演習の意味に全く気付いていない若手共に、呆れた視線を送った。
なぜ団長と副団長が、二人きりで組んだのか。
最強は誰なのか、冷静に判断すればすぐに分かるはずだった。
剣を構えた団員たちは、団長と副団長に狙いを定めた。
「数で2人を潰して、次に他を倒せばいい!」
「うおおおおお!」
団員たちの心は一つになって、一斉に2人に立ち向かう。
ガルドたちは、落ち着いた様子で剣を構える。
ガルドは、受けた剣を薙ぎ払う強烈な一撃を見せ、向かってくる団員たちを次々と打ち倒して行った。
リサリアは、相手の刃先を流し吹き飛ばす剣術を見せ、素早い動きで団員達を倒していく。
「うう…」
「ひ、ひえ……」
倒された団員はヨロヨロと起き上がる。
少しタイミングが遅れた団員は、2人の圧倒的な強さに足がすくむ。
「…………どうした………早くかかって来い」
「…………まだ、終わってないわよ……?」
ギロリと見つめる2人の低い声と壮絶な威圧感は、まるで魔王のようだった。
演習で初めてこの“殺意”を受け、ガタガタ震える団員たちに、二人は容赦なく剣を振るった。
「ぎゃあああああーーーー!」
「す、すごい」
「ははは、今回は容赦ないですね」
ひかりは、2人の強さに圧倒された。
隣に座っていた室長シリウスは、面白そうに笑っている。
これで終わりなのかな?
ガルドは倒れた団員たちをそのままに、演台のほうへ歩き出そうとした。
そこに、リサリアが片手でガルドに剣を向けた。
「リサリア?」
「個人戦がまだよ。ガルド」
ガルドが、怪訝な顔をしてリサリアを見る。
リサリアの瞳は真剣で、爛々としていた。
「行くわよ!」
「は!?おいっ!」
リサリアの剣を慌てて受けるガルド。
全体重を乗せて押してきたと思うと、すぐに動きを変えて、隙が見える場所へ撃ち込んでくる。
リサリアの剣は確実にガルドの苦手を突いていて、本気で勝負を挑んでいるとわかった。
「私ね、気付いたの……ガルドに勝って専属になれば、朝から晩までひかりちゃんの側でお世話が出来るって!」
「もう朝も晩も一緒にいるだろうが!」
「公式にいれるって事よ!」
「いや、副団長の仕事しろ! 何言ってんだお前!?」
突然始まったリサリアの猛攻に、不参加で見学していた騎士たちはポカンと見ている。
「あの2人何やってんだ?」
「よくわからんが凄いな……」
鬼のような気迫の攻撃に、ガルドは焦りと苛立ちが募ってきた。
「おい、いい加減に…」
「ガルド、ひかりちゃんを女性として意識してるでしょ」
剣と剣が重なった時に、リサリアはガルドにボソッと耳打ちした。
「なっ、何を――」
「丸分かりなのよ!」
リサリアは、焦りを見せるガルドと剣を押し合う。
お互い後ろに飛び退き、剣を構え直す。
「ひかりちゃんの事になるとここの男共ときたら、この体たらく……ガルド……」
覇王とも呼べそうな威圧を纏い、リサリアはガルドに向かって走り出す。
「絶対に、ひかりちゃんを幸せに出来る男じゃないと認めない! 娶りたければ、この私を倒してからにしなさい! 侯爵家舐めんじゃないわよ!」
「権力使う気満々じゃねーか! 辺境伯潰そうとすんな!」
リサリアは、己の持てる全ての力を注ぎ込んだ一撃をガルドの剣へ叩き込んだ。
焦りながらもガルドは迎え討とうとするが、受けた所にヒビが入りあっという間に剣が折れて、刃が吹っ飛んでいった。
「あ」
「私の勝ちね」
リサリアは、ガルドに満面の笑みを向けた。




