ご褒美
翌日、リサリアは朝食を終えたひかりをウキウキでおめかしをし始めた。
「今日は特別な演習があるの。私も参加するからひかりちゃんは見学してもらってて良いかしら?」
「演習ってなんですか?」
「今回は模擬試合ね。男女混合で勝ち抜き戦をやるのよ。」
「えっ男女混合?スゴイですね。」
「私はガルドと組むの。応援してくれる?」
「もちろんです!応援しますね!」
ひかりはにこやかに笑って頷いた。
リサリアは何枚もドレスを広げて吟味し、着付けを終えると化粧を施す。髪型も整えて何度もひかりの装いをチェックする。
「これで良し」
キュッと背中のリボンを整えた。ドレスは肩から袖までふわりとケープのように淡い薄紫色のレースがかかっている。スカートの裾は下へ向かうほど色が濃くなり流れるようなグラデーションになっていた。淡い薄紫の繊細なドレスがひらひらと靡いて、キラキラと輝く透明な宝石が揺らめくピアスにネックレス。まるでお姫様のような格好だ。
「あの、なんでドレスで見学なんですか?」
昼は食堂へ行かず、リサリアが軽食を用意してくれた。サンドイッチをもぐもぐ食べる。
ひかりは不思議そうにしてると、リサリアはいい笑顔で答えた。
「ひかりちゃんはご褒美だから!」
「え?」
演習場には騎士団員全員が整然と並んでいた。鎧を纏ったその姿は勇ましく、圧巻だった。
貴賓席にリサリアがひかりの手を引いて現れる。ふわりとドレスの裾が風に揺れ、耳元でピアスがきらりと輝いた。
文官の室長シリウスがリサリアからエスコートを代わる。貴族でもあるシリウスは優雅にひかりを席へ座らせてくれる。
清楚な装いで優しい表情のひかりに、若手騎士団員達は思わず見惚れていた。
「か、可愛い……」
「ドレス姿いい……」
リサリアは団長の元に戻った。ガルドは演台の上に立つ。それが合図のように、騎士団はザッと姿勢を正した。
ガルドはスウと息を吸い込み、力強く声を響かせる。
「今回は男女混合で模擬戦をやる! 若手以外は自由参加だ。挑戦したい者だけするがいい!」
いつもなら全員参加であるはずの模擬戦。その条件に戸惑う騎士達。
「今回は勝ち抜いた者に褒賞を与える!ひかりからの祝福だ!」
その言葉に、場が沸き立った。
――異世界人からの祝福。それは何よりも名誉なことだった。
騎士達がざわめく中、さらにガルドは言葉を続けた。
「まずは団体戦を行う! 自分と組む仲間の人数に制限はない。勝った組は、その中から個人戦を行う。最後に勝ち残った者を、ひかりの護衛騎士に任命する!」
場内がどよめいた。
それはすなわち、国が保護する特別な人物の護衛という地位と名誉を手に入れることを意味していた。しかも対象は、ちんまりと可愛いひかり。
「なんと、随分な報酬だな。あと十年若ければ参加できたのにのう」
老齢の騎士が、のんびりと残念そうに呟く。
「そうですねえ。さすがに若手が大勢で組まれたら、我らの出る幕はありませんな」
熟練の騎士達もまた、数を出されれば勝ち目は薄いと頷き合った。
それを聞いた若い騎士達は色めき立つ。
先輩達は出ない――ということは、自分達にもチャンスがあるのではないか? 数を集めれば勝てるのでは?
「俺と副団長は二人で組む! 他の団員は好きに組め! 十分後に開始する!」
その瞬間、騎士団員たちの胸にはさらに勝機を感じた。
これは逃してはならないビッグチャンス!!
だが興奮の渦の中、欲に目が眩んだ団員達は誰一人として気付いてはいなかった。
「上手い話には裏がある」
そんな子供でも知っている当たり前の事実に。