パパとママ
王城へ着くと、ガルドが先に降りてひかりをエスコートする。
ひかりとガルドが、歩き出そうとした時に二台の馬車が近くで停まった。馬車には綺麗な装飾が施されていて、高位貴族だと一目で分かる。側では、馬に乗っていた騎士が降りていた。
ガルドはその馬車を見て、驚愕していた。
「え!?なんでうちの馬車が来た?」
「うちの馬車?」
「あれは辺境伯家の馬車だ」
驚いているガルドに、ひかりはキョトンと見つめる。
その間に侍従が馬車の扉を開けて一人の女性をエスコートした。
「母上!?」
「え!?」
辺境伯夫人はガルドに気が付いて、優しく微笑んだ。
深緑のドレス姿で、ふんわりと柔らかな白銀の髪を結い上げており、金の髪留めで留めていた。
ペリドットのような澄んだ緑の瞳は興味津々といった感じで輝いていて、妖精のような可愛らしさだった。
「まあ、ガルド。元気そうね。あなたがひかり嬢?私はガルドの母、エリンシア。
うふふ、息子に春が訪れたって聞いたから会いに来ちゃった」
「は、初めまして。ひかりです」
「母上、父上はどうしたのです?」
突然の未来のお姑さん登場で、ひかりは慌てて挨拶をした。
ガルドは何故か焦りながら周りに父親がいないか見ている。
「ちゃんと手紙を置いて来たわ?心配しないで大丈「エリンシア!!」
すごい剣幕で男性が馬を走らせて来た。その遠くにも数人の騎士が馬で追いかけてきた。
夫人の名前を呼んだ男性は、よく見るとガルドが歳を取ったらこんな感じかと思うほどにそっくりだ。
彼が馬から降りるとエリンシアに抱き付き、泣き出した。
「酷いよ!何も言わずに王都へ行くなんて!」
「あら、ちゃんと手紙を書いておいたわ?」
「挨拶と心構えをする時間を頂戴!突然一週間も会えないなんて、僕死んじゃうよ!」
「大丈夫。死なないわ?」
ガルドにそっくりな顔で、泣きながら泣き言を言っている。
ひかりは呆然と二人のやりとりを見たあと、ゆっくりとガルドの方を見た。
うんうんと納得するように頷いている。
ひかりは、ゆっくり顔を戻して見なかったことにした。
日本人のスルースキルを最大限に活用した。
私は何も見てない聞いてない知らない。
「二日も会えなかった!寂しかったよう!」
「レオルド、よく二日で追いついたわねえ。ちゃんと寝てる?」
「エリーを追いかけて一睡もしてない。隣にいないと眠れないよ。一緒に寝て」
「宿に戻るまで待ちましょうね?」
触れちゃいけない夫婦の部分を思いっきり見てる気がする。
席を外したい。私のせいでこうなってるとか言わないでお願い。
「ひかり嬢」
「は…はい…」
そんな願いも虚しく、エリンシアを抱き締めたままの男性から声を掛けられる。
僕死んじゃうと涙で潤んでなければ、とても色気のある格好いい男性だ。
「こないだの謁見はよく頑張ったね。ガルドの父親のレオルドだよ。僕のことはパパって呼んでね?」
「はい?」
「あら!私だってママって呼ばれたいわ!」
「父上、母上、まだ気が早すぎます。私たちが結婚してからにしてください」
違う。そこじゃない。
突然揃ったこの家族をどう扱えばいいのか。
ひかりは遠い目をしながら三人を見ていた。
「さあ、ひかりちゃん。王妃様の所へ行きましょうね?」
エリンシアはレオルドから離れると、そっとひかりの手を取り王城の中へ歩み出す。
「え?母上も王妃様のお茶会に招待されたのですか?」
「そうよ。ちょっと急だったから、視察に出てるレオルドにお知らせするのが手紙になっちゃったの。ごめんなさいね」
「うん。まあ、それなら仕方ないね」
レオルドは落ち着きを取り戻したようで、ニコニコと笑顔でエリンシアの隣を歩いている。
ガルドとそっくりな顔でご機嫌な笑顔をしてるので、ひかりはなんだか不思議な気分になっていた。
ガルドを見ると目が合って、優しく微笑んでくれた。
「ガルドはお父さんとそっくりだね」
「え!?嘘だろう?」
「? みんなに言われない?」
「ハハハ、ガルドは僕の若い頃そっくりだよ」
「そうね。ニコニコしたら生き写しになるんじゃないかしら」
「あ、ああ見た目のことか」
ガルドはみんなの話を聞いてホッとしていた。
見た目以外のどこかを父親と似てほしくないようだった。
……薄ら気持ちがわからないでもない。
王城の中へ入ると王妃の専属侍女のレイゼンがやってきた。優雅にカーテシーをする。
「辺境伯家ご夫妻、ご令息様。ひかり嬢。ようこそおいでなさいました。王妃様がお待ちですので、ご案内いたします。
エッセン団長、控え室でお待ちくださいませ。
…エッセン卿は、エリンシア様とご一緒にはいられませんことご容赦くださいませ」
「ああ、うん。大丈夫。ガルドと一緒にいるよ」
「かしこまりました。ではエリンシア様、ひかり嬢こちらへ」
ひかりは不安げにチラとガルドを見ると、ガルドは優しく微笑んで頷いた。
レイゼンは、スッと姿勢をただして二人を案内をする。
エリンシアも優雅に歩いていて、ひかりは緊張しながら着いて行った。
女性たちが離れると、ひかりの前では頼もしかったガルドに、ニヤニヤとレオルドが笑いかけた。
「ガルド、かっこいいー」
「揶揄うの止めてください」
愛する人を見送った男たちは控え室へ向かう。
レオルドは謁見の時とも違う、軽い雰囲気になっていた。
「ひかりちゃん、可愛いもんねえ。ああいう子がうちに来てくれたら嬉しいなあ。エリーも嬉しそうだったね」
「そうですね。待望の娘ですもんね」
「あいつらも喜ぶよ。妹が欲しいって言ってたもんね」
「義姉ですよ。俺と同い年ですからね」
「え?」
レオルドは、ガルドを頭からつま先まで見た。
無言でひかりを思い出す。
「同い年?」
「父上、俺は若い頃の生き写しなんですよね?」
失礼な態度にじとりとガルドはレオルドを見た。




