いざお茶会へ
親睦パーティで、ひかりたちは色んな現実に気づくも日常は続く。
「おはよう、ガルド」
「おはよう、ひかり」
笑顔で挨拶をする二人。一緒に食事を囲む日々。
ひかりも、ガルドも、いつも通りささやかな話で笑い合い、互いを思いやって過ごしていく。
この日常の時間を大切にしているのだと、周囲は気付いていた。
その姿をリサリアは、切なくも笑顔で見守る。
もう自分が二人のことで手を貸すことは何もないのだ。
今やるべき手伝いは一つだけ。
王妃様とのお茶会だ。
今日はお茶会の日なので、ひかりはリサリアにドレスを着付けてもらっていた。
その間もひかりはソワソワと落ち着かない。
「お茶会って…何するの?」
ひかりは怯えまくっていた。
国のトップとお茶をするとか意味がわからない。
お茶って、飲み物を飲むお茶で合ってる?
なんか他の意味がある?
しかも、どうやらリサリアは同席出来ないらしい。
護衛は王城までは一緒に行けるが、お茶会の場では控えるようにと伝令が来ていた。
「ふ、二人でお茶!?なんで!?」
「なんでかしらね…知識をもらおうとする為に二人きりなんて、ひかりちゃんを警戒させるだけよね。言葉巧みに奪うとか、王妃様はそういうお方じゃないわ」
リサリアも困ったように首を傾げる。
困りながらも手際よくひかりのドレスを整えていく。
薄いペールブルーの清楚で爽やかなドレスだ。
繊細な白いレースが袖口や裾に施されている。
アクセサリーも控えめに、小さなピアスとネックレスを付けた。
ひかりを鏡の前に立たせて、最終確認をするとリサリアは満足気に頷いた。
「うん。可愛くできたわ。ひかりちゃん、今日は一緒に行けないけれど、ガルドが側に…いられないわね」
「二人きりやだよお〜」
「う〜ん。ひかりちゃんはいざという時は、きちんとした所作も出来てるから、そんなに心配しないで大丈夫よ?」
「うえーん。ママぁ行きたくないよ〜」
「今回ばかりは我慢しましょうねえ」
ぐずる駄々っ子になったひかりの準備が出来ると、リサリアは宥めながら部屋を出て馬車に向かった。
今回はリサリアは留守番で、ガルドが護衛に付いた。
何故かこれも指定された。
「アーノルド王子がしたことへの謝罪がかなり重いのかしら?」
「ええ〜気にしてないから、そっとしておいてくれていいのに…」
緊張でしくしくと胃が痛む。
王子のやらかしで、こっちが迷惑を被る。なんでだ。許すまじ王子め。
馬車で待っていたガルドは、ひかりを見て苦笑した。
明らかにテンションが低くて、行くのを嫌がっているのがわかる。
「ひかり、とても綺麗だ。さあ、行こうか」
エスコートする手を、ひかりは渋々取る。
もう謁見用の格好いいガルドを見てもテンションが上がらない。
また見られて嬉しいけれど、それ以上にこれから始まる「王妃様と二人きりのお茶会」という逃げ場がなさすぎるイベントが重くて反応できない。
帰りに思う存分見ることにしようと心に決めた。
「ひかりちゃん、気をつけて。いってらっしゃい」
「うわ〜ん!リサリア〜帰る〜」
「まだ行ってもいないだろう…ほら、諦めて乗るぞ」
「うわ〜〜ん」
ひかりは馬車でドナドナと連れて行かれた。
「ひかりちゃん、なんだか可哀想ねえ…」
リサリアは手を振りつつ、半泣きになっていたひかりを見送った。
普通は王妃様とお茶をするなんて名誉で光栄なことだと喜ぶものなんだけど、ひかりは完全に逃げ腰になっていた。
馬車の中では、ひかりはしょんぼりして全身でお茶会を拒否していた。
病院へ行くのを嫌がっている猫そのものである。
ガルドは苦笑しながらひかりを慰めた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。王妃様はお優しくて思いやりもあるから、きっと楽しく過ごせるさ」
「ほ、本当に…?」
「ああ。アーノルドのように欲しいものの為なら、どんな手を使っても手に入れようとする人間では全くないから大丈夫」
「王子を基準にしたら、みんな良い人になっちゃうよ〜!」
王妃様の息子に対して酷い言い草なんだが、散々迷惑を被ってるのでお互い不敬な言い分はスルーしていた。




