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辺境伯の伝承
辺境伯一族は、戦では何があっても戻ると誓う。
最愛が待っている場所へ。
悲しませてはならない。
愛したあの人が涙を流すのは喜びの時だけだ。
侵攻などしてきたら、血族全てが狂戦士になり牙を剥く。
何よりも大切なあの人の暮らしを脅かすことは許さない。
だから、慈悲などいらない。絶対に負けない。
あの人がいるから生きていける。
あの人が笑うから守れる。
戦の中では、最愛を愛する姿はもう信仰に近かった。
命に直結するほどまでに愛情が溢れる。
だから、必ず帰ってくるのだ。
腕の一本や二本どうなろうと構わない。
身体の一部が無くなろうが構わない。
最愛の元に生きて帰ることが全て。
辺境伯一族の強さ。
呪いと言われてもおかしくないほどの愛情。
愛された人間は、それを笑って受け止める。
相手から神と崇められるほどの器の持ち主。
溺れるほどの愛情を、まるで小さな星のように愛でて喜ぶ。
自分の元に戻る伴侶には、溢れる愛を注いであげる。
まるで命を吹き込むように。




