エピソード 小さきものは可愛いのです
「お疲れ様でーす。」
「お疲れ様。」
ゾロゾロと退社して行くオフィスカジュアルな女性達、その中にひょこっと背の高い女性がいた。
「桜さん、今日の飲み会行く?」
小柄でふわりと髪をまとめた同僚の川村さんが声をかけてきた。白い柔らかなブラウスが華奢な彼女に似合っている。
「ううん。久しぶりの定時だし、今日は帰って部屋片付けなくちゃ。もう部屋がヤバイのよ。」
ショートヘアの桜ひかりは、おどけて天井を仰ぎウンザリした表情をした。
川村さんはクスクス笑いながら「そっか。じゃあまた今度一緒に行こうね?」と手を振って、飲み会へ向かう人達の方へ向かっていった。
ヒラヒラと手を振りながら、ひかりは川村さんのちょこちょこ歩く姿に癒されていた。可愛いなあ。ふわふわと柔らかな髪型と服装。
自分も昔はああいう服装に憧れた。でもいざやってみるとズボラな自分にはセットが面倒、歩きずらい、肩が凝る、何よりサイズが合うのを探すのが面倒臭い!となってしまってもっぱらユニセックスのパンツスタイルになっていた。
子供の頃からずっと背の順では1番後ろ。
同級生の女の子達を小さくて可愛いなあと見てる側だった。男の子には揶揄う子もいた。でも高い所に手が届いたり、人が多い時に視界が開けてたりと便利な部分が多いのでひかりは特に気にすることも無く。むしろ揶揄ってくる子ほど、ひかりより小柄だったりしたので「小さいと可愛いよね。」と曇りなき笑顔で言っていた。
今も年配の方達が沢山歩いてる時は「小人さんがいっぱいいる。妖精の国みたいだ。かわいい」と思ったりする。
ひかりはいつも可愛いのを愛でたい側にいた。
「ただいまー。」
アパートのドアを開けて入るとごちゃごちゃした部屋が目に入る。
「うえー片付けなきゃ…。」
可愛いもの好きなひかりはハンドメイドにハマっていた。ちんまりとした小物を作るのが楽しい。でも気になった物に見境なく手を出した結果、道具や材料が溢れていった。
「折角早く帰ってきたのになー。」
片付けが何とか終わって、寝る準備をする頃には日付が変わる頃になっていた。
「はー疲れた。」
ひかりはジャージに着替えてベッドに転がり、目を瞑る。ゆっくりと眠りに落ちていった。