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俺と妖怪の筒ましい生活

 聞いてくれ。


 俺が目覚めたのはあれから5日後だった……嘘みたいだろ?


 親父の配慮でホテルの一室を別で取り直し、連泊にして真砂の管理で俺が目覚めるまでサポートしてくれたとのことだ。


 実家が近いせいもあって、毎日入れ代わり立ち代わりで夜兄と結緋さんがお見舞いとか治療……この場合は霊力の補填を手伝ってくれていた。


 もちろん、東雲はずっと俺の傍から離れないで見守ってくれていた。眠っていても、糸の距離は感じていたし、平気な顔で自分の中の霊力をギリギリまで送り込んでくれてた。


「……おはよーさん、秋くん」

「んぁ……あおはぉ……ふあぁぁ……」


 寝ぼけ眼で周りを確認……なんだこの部屋……。


「やあっと目ぇ覚ました……ほんまみんなに心配かけるん好きやなぁ秋くんは……」

「それはなんかごめんだけどさ……どうなってんの、これ」


 淡々と東雲は語る。


 東雲目線だけど、一番心配してたのは結緋さんとかーちゃんだったんだって。結緋さんはお手製の元気が出る道具を色々作って毎日俺の周りに置いて増やしていき、かーちゃんも同様にわざわざ鬼百合の館から出てきて花やらみかんの缶詰やらを積み上げていった。


 夜兄も、仕事の合間を見てお見舞いに来てくれて、自分の霊力を時間が許す限り注いでくれた。物は結緋さんたちに任せるって笑っていたそうだ。そりゃそうだ、俺でもこれは笑う。


 まるで呪詛の祭壇みたいになってるからな。


 そこに加えて、だ。


 絢の一族の本家に今回の事の真相が伝えられ、被害を受けた俺に対してお詫びの品という形で色々と送られてきたんだって。

 主に送られてきたのは花なんだけど、それがまぁデカくて……ものの3日で部屋を埋め尽くしたんだそうだ。

 親父が用意した部屋はスイートルームだったのに、その広さをすべて。


「あ、あかん、もう無理ぃぃ!ひぁーっははははははは!!」

「気持ちがデカすぎだろ俺の身内も絢のところも……」


 笑をこらえて一生懸命真面目に話をしてくれていた東雲に限界がきて、笑い転げている。よくがんばって教えてくれたよ。


「寝てる時もおもろかったんけど、起きたら起きたでおもろいなぁ……さすが秋くんやで~くふふふ」

「なにがおもろいんじゃ!にしても……ここまで心配されるとは」


 こんなにも、大事に思われていたのかと……実感した。


 バタンッと、静かに扉が閉まる音がした。


「お?起きたか……」

「おはよう、秋緋」

「あーちゃん起きてる!よかったぁ……」


 見舞い品をかきわけながら、親父と壱弥、沙織里も顔を出した。


「まだ授業中なんだけど、ちょうど特選の授業だったからみんなでいこうってなったんだ」

「うんうん!あのね――」


 沙織里は俺の耳元で囁き、教えてくれた。


「あーちゃんが全然目を覚まさなくて、私ももちろん心配だったんだけど……師匠がもう、仕事が手に着かないくらいになっちゃって……うふふふ!今日も全然授業にならないから壱弥くんがしびれを切らしちゃって、来ちゃったんだぁ……でも、来てよかった」


 沙織里の吐息にドキドキしちゃった。


「本当に困ってたんだよ?でも、これで一安心かな」


 今まで見たことない優しい顔になってる。それだけ、心配かけちゃったってことか。


「……ごめん心配かけて、わざわざ来てくれてありがとうな」

「俺も…お前を囮にしようと考えて動いたのも悪かったが……結果いい方向にいったからよかったけどな!おはよう我が息子ぉ!!」


 いや、なんかちょっと涙ぐみながら喜んでるけど囮ってなんだよ。寝起きで怒らせるなよ?原因親父ってこと?

 そういうことなら、俺は【特選】の授業なんてもう受けてやらんぞ!サボってやる!不良としててっぺんとるぞ!


「80年代じゃないんだから…ちゃんと授業受けないと、2年生になったら大変なことになるよ?」


 また俺の心読みよって……でも、2年になったら大変ってなんかあったっけ?


「秋緋……学校入学案内のパンフレットちゃんと読んでなかったんでしょ」


 いや、穴が開くまで読んだぞ。入学してから落ち着いた生活なんてできてなかったから学校生活に重きをおけなかっただけだ。


「水瀬の特色、2年は暗黒時代と呼ばれる勉学のブラックホール」

「そうそう!おもしろいよねぇ……1年生はまだお客様ってかんじで楽しい事多いんだけど、就職に強いってのもあって、義務的な高校生相当の学力はすべて2年生の時に詰め込まれるようなもの……3年生になれたらまた違うみたいだけどねっ」


 そんなひどかったっけ?そんな風には書かれてなかったと思うんだけどな。3年生はキャンプの時ちょっとみたけど、確かに2年生ってほとんどいなかったな……あれ、なんだろ、寒気が……?


「僕は全然心配してないけどね、就職先は決まってるようなものだし、2年生になっても勉強してるふりしながら修行に励んでいてもさとればいいから、楽勝」


 お前は卑怯すぎる。


「私も!そうだ!あーちゃんも、せっかく防呪も極めてるし、東雲さんもいるし、一緒に【筒師】になろーよ!」


 沙織里は学年1位2位を争う秀才だった……こんなにぽやんとしているのに不思議で仕方ない。天は二物以上を与えすぎだ。

 沙織里の申し出が心に刺さる上に、そんなキラキラした目でみてくるのはやめてくれ……俺はお前に弱くなってるんだから。


「そうだぞ秋緋!俺もいるんだからな!」


 スッと親指を立ててニコッと笑う親父を見て冷静になる……そこは感謝しよう。が、親父がいるのが不安でしかないんだと……どうしてわからないんだ!また囮にでも使われたら今回どころじゃなくなるだろ!


「秋くん、俺もええと思うんやけどなぁ~夜くんも喜ぶやろし~」


 お前は夜兄に会いたいだけだろ。ほんとどうしてここまで夜兄に心酔してるのかわからん。俺も家族として、兄として好きだけどそこまでならんぞ。


 バンッ!と、また扉が勢いよく開いて閉じる音がした。


「秋緋!ほんとうじゃ!目を覚ましておる!よかった~よかったぁぁあ~~!」

「慌てないで結緋……秋緋は逃げないから。ふふ、おはよう、元気になったみたいだね?」

「お目覚めになってなによりです秋緋様、快気祝いです、どうぞ」


 バコーンと頭にリンゴが当たる。ほんとうにこいつわ……。


「ぐ、ぐるじい……」


 リンゴの後に結緋さんも飛んできて抱きついて……俺の首をしめるしめる……また意識が飛びそう。


「ぷっふふ……この騒がしさひさしぶりちゃう秋くん?」


 確かに東雲の言う通りではある。

 常に慌ただしくて、知らない間に命のを狙われてて、妖怪にも色々されて……こんな平和な騒がしさは久しぶりだ。


「おぉそうじゃ秋緋!せっかく防呪を使えるようになったのじゃ!今回のように倒れることがなくなるよう本格的に【筒師】の修行をしてみてはどうじゃ!」


 なんと、結緋さんまでそんなことをいうのかと。

 ベッドの横に立っているみんながみんな、期待に満ちた表情で俺を見つめている。


「これはもう逃げられないんちゃう?」


 いや、俺は諦めていないぞ。


 もちろん、なにかがあって、誰かが困っていたり、妖怪も人も、命が消えてしまうようなことがあって、俺が巻き込まれるようなことがあるとすれば……仕方なく協力はする……つもりだ……けど――。


「俺は!一般人として!つつましく生きて!生活するんだあぁぁっ!」


 俺の叫びは、届いてるだろうか?


 まだまだ、俺と妖怪のつつましい生活が、続きそうでならない。


 ~おわり……?~

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