贈り物①
古風な造りの大きな屋敷の一室に彼女はいた。
昼過ぎだというのに薄暗い部屋、明かりは赤い筆で書かれた文字が刻まれている蝋燭のみ、ゆらゆらと怪しく照らしている。
部屋の中央の床に描かれた方陣の上に彼女は座り、ぶつぶつとなにかを呟いている。
「破っ!!」
蝋燭の火が弾け、一瞬消えたように見える……握っていた手をそっとひらくと、淡い光りの輝きを放っている『何か』が出来上がっていた。
「できたー!できたぞ茨木!入ってこい!!」
長い髪を弾ませながらぴょんぴょん跳ねる彼女に呼ばれ、障子を開ける。
「よいか?これは可愛い弟のために作った秘密道具じゃ!本当は直接届けにいきたいのじゃが……依頼が立て込んでどうしても行けぬ……」
「私が……届ける、と……?」
姫子様のお願い事であればなんでも叶えてあげたい茨木だが、男に贈り物を渡すのは死ぬほど嫌でどうにかお断りしたい……唸りながら葛藤する茨木に会心の一撃が刺さる。
「だめ……?」
「おおせのままにぃっ!!!」
上目遣いの破壊力はすさまじく、姫子こと、結緋の手から光る『何か』を奪い取り、勢いよく部屋を飛び出していった。
*******
GWに入り5月。
日差しは暖かく風が心地よい昼下がり、俺は久々の平穏を噛み締めながら部屋でゴロゴロしていた。
「ちー♪ちちち♪」
「みー♪みみみ♪」
まぁ小鬼は相変わらず俺の回りを踊り狂っているが、それ以外は何もない。
なぜなら!沙織里も!壱弥も!親父主催の合宿に行っているからいない!
こんな幸せな時間を過ごせるのはいつぶりだろうか……目を閉じると思い出される数々のぉ……うん、思い出すのやめよう、そうしよう。
そんな俺もバイトをできる限り詰めていて、今日は唯一のオフ日だ。
明日までなにもないこの時間をゆっくりと過ごしたいわけなのだが……雲行きが怪しくなってきた。
天気予報では、今日から3日間は晴天が続くはずだったのだが……山が近い地域だから天気も変わりやすいのだろうか?外に干した洗濯物を濡らすと手間になるな……仕方ない、部屋干しに切り替えるか。
「ふぁ~……夕方までゴロゴロしてたかったのになぁ……」
渋々外に出ると雷まで鳴り出し、そっちのゴロゴロは求めてないんだよ……と、イラっとしたその瞬間。
ピッシャーン!
バッァン!
ドシャーーーー!
庭の木に稲妻が落ち、洗濯物に手をかけた俺めがけて集中豪雨が……なぁんか覚えがある展開、そのまま固まる俺。
全身見事にずぶ濡れになったのを見計らったかのように雲は晴れ、サンサンと降り注ぐ太陽の光が俺を輝かせる。
「『水も滴るいい男』だとでも?はぁ?」
「好きで滴らせてるわけじゃねぇだろどうみても!」
「あなたほどキラキラが似合わない男はいませんね」
「ほっとけ!!……で?なんの用だよ茨木……」
こいつの嫌がらせは今に始まったことじゃないし?
しかもこの展開は前にもやられたことがあるし?
驚かないし?
友人だとかいう雷神とタッグを組んでやらかしたに違いないし?
「おやおや、そんな睨まないで下さい?姫子様がご心配なさっておりましたので友人に頼んで大急ぎでここまで送っていただき、秋緋様のご様子を見に来ただけですよ?」
ほらでた、友人、絶対雷神……いくら神様でも友達は選んだ方がいいと思うよ、俺は。
「ふむ……まぁ元気なようでなによりですが……とりあえず着替えたらどうですか?」
「誰のせいでこうなったと思ってんだよ!」
いつも以上に態度が悪いような気がするが、追及したところで彼は変わらないだろう……洗濯物をもう一度洗濯機につっこみ、着替えを済ませ部屋に戻ると……家主が大変な思いしてると言うのに、勝手にお茶を淹れ、勝手に座りくつろぐ茨木……もちろん俺の分はない。
こいつほんとに真砂の使用人?普通用意するよね?おかしくない?
「あまり男臭いところに長居したくはないのですが……手ぶらで帰るのも姫子様に申し訳ないのでなにか手土産でもほしいですね?」
にっこりと笑い立ち上がると、タンスへに向かって一直線。
「は?ちょ!勝手に漁るな!」
土産で俺の私物を持っていこうとするな!結緋さんも俺のパンツもらっても嬉しくないだろ!
「普通に菓子とか買っていけばいいだろ!」
「たまにはいい事をいいますね?では秋緋様、お店をご紹介下さい?もちろん姫子様がお喜びになるような可愛らしい菓子店……ご存知ですよね?」
「え……」
「では参りましょう」と引きずられながら商店街へ……行くのはいいんだが……そんな可愛い店なんて……みたことないぞ?




