舞い降りた……②
探すにしても……とりあえず、購買か?飲食スペースにいる生徒のひとりくらいは沙織里を見かけてはいるだろう。
「……え、天使ちゃ、ふぐっぉ!?……古泉さん?確かパンをいくつか買ってたのを見たよ」
「なんかぁ?帽子かぶった男子に話しかけられててぇ~中庭の方に出てったのみたよぉ~?」
「ねー!」とハモって。
たまたま近くにいた手頃なカップルに話しかけたら目撃していたらしく教えてくれた。
俺のクラスの中に帽子をかぶってる奴は一人しかいない。
俺みたいにある意味で目立つから覚えていた、名前は確か……蔵井丈二。
ちょっと暗めのタイプの男子だから、目立つところには行かないだろう、中庭に来たのはいいが気配はなく……校舎裏が怪しいと見た。
生徒たちの憩いの場である中庭から、食堂の裏の搬入口みたいなところかな?そこへ抜ける道がある。
朝以外は職員も滅多に行かないし、食堂のおばちゃんは今忙しい……生徒が行くことは先ず無いところだ。
勘がいいぜ、俺。
沙織里に手を出そうとしていることは間違い……非常に、危険だ……どうか、無事でいてくれ!
『……遅かったな、人の子』
少し暗がりになっている道へ入ると……沙織里から眩光が溢れ……その足元には不様に倒れている蔵井を発見した。
勘が当たったのはよかったものの……遅かったー!!すまない蔵井っ!俺がもっと早く!!
「大丈夫か?!」
『……我がいるのだから無事であるに決まっていよう』
「そっちじゃないわ!蔵井?!……あぁ……寝てるだけか」
光が消え、姿がハッキリと見えてくる……そこにいるのはまごうことなき【天使】、天使ちゃんの【天使】だ。
……まさかとは思うだろうが、沙織里には【天使】が憑いている。
昔見た時より見た目が豪華に……グレードアップしてる気がする。
「あれれ?あーちゃん?それにミカちゃんも?ひぇー?!これ蔵井くん!?なになになにー??なんでー?!」
これ呼ばわりとは哀れなり……なにも伝えることができなかったか。
ミカちゃんと呼ばれた【天使】がなんらかの力を使って干渉している時の記憶はないらしく、沙織里の意思と関係なく力を使う、はた迷惑な【天使】だ。
『人の子、いま失礼な事を考えていたのではないか?』
「かんがえとらんわ!いいから状況説明しろよ!沙織里が困ってるだろ!」
持ってる槍の先端が俺の方を向く……危うく昇天させられるところだった。
『みての通りなのだが?』
「……詳しく、だ!」
『ふむ。こやつが我らの愛し子に無理矢理迫ってきたのだ。可哀想に……我らが愛し子は怯え、間にはいった妖怪も役に立たず……仕方なく手を下す判断をした。しかし、クラスメイトということを考慮して眠らせ、記憶を消すだけに止めた……というところだ 』
「ミカちゃん……よくわからないけど助けてくれたのはありがとうだけど、かおりちゃんは役立たずじゃないよ!」
怒るところは間違ってないとは思うけど……もうすこし気にしてやってくれ。
事の前後の記憶を若干消されてるとのことらしいが……結構なことをされてるはずなのに、蔵井はヨダレを垂らして気持ち良さそうに寝ている。
『今頃母に抱かれている夢を見ていることだろう。人の子、いや、秋緋よ。次は無いぞ?約束を守らないのであれば愛し子は我々のものになる。忘れたのではあるまいな?』
えー……あれ、約束っていうか脅迫だったよ?
小さい時、沙織里と遊んでいた時にこいつが現れて『愛し子が唯一慕う事が許された人の子よ。愛し子を守り、連れ添うことを約束せよ。』って……槍突き立ててきたんじゃん。
「はい」って言うしかないじゃん……あの時は『慕う』の意味とかわからなかったし、怖かったし……。
『……愛し子はまだ曖昧……だが……秋緋よ、お前は――』
「それ以上言うな!わかったよ!守るよ!」
『わかればいい』と【天使】は笑って消えた。
沙織里は俺の顔を覗きこみ「真っ赤だね、どうしたの?まだ痛い?」と。
表に出したくなかったのに【天使】のヤツ……約束、といいながら面白がっているとしか思えん。
神の言葉といいながらもてあそんで……まんまと踊らされて意識してる自分がいることは、認めざるを得ないけれど……。
「あーちゃん、蔵井くんこのままだと可哀想だよね?あったかいところに移動させてあげようっ!」
確かにこのままはまずいしな、仕方ないから運んでやるとするか。
「いいなぁ?私もおんぶしてほしいな?昔みたいにっ」
「……お断りだ」
蔵井を中庭のベンチに寝かせ、教室へ戻ることにした。
「お昼寝の邪魔したらダメだしね!」って放置プレイをしてもらえたぞ、喜べ!……って、覚えてないだろうけど。
*****
「やっぱり沙織里さんが適任だったみたいだね?復活おめでとう秋緋」
壱弥に誉められてどや顔で鼻をならす沙織里。
元気になった俺をみて、クラスメイトたちはまた、ざわつく。
なにをされたんだろう……と、モヤモヤしてるんだろうな。
「あーちゃん?また辛くなったらしてあげるから、ね?」
男子を中心にざわつく教室内……よからぬ想像をさせる刺激が強い発言。
しかも、みんなの「天使ちゃん」からでたからな?うん……もうなにもしゃべらないでお願い。
居心地の悪い空気のまま……午後の授業の予鈴が鳴った。
「ねぇ……そういえば小鬼たちどうしたの?」
……言われて気づいた。土曜日のバイト終わりから、いない。
どおりで静かなわけだ。
「どっかに置いてきた……の……かな?」
小声だったけど、壱弥は少し怒ってるみたいだった。
「死ぬってのは大袈裟だったけど、小鬼のおかげで体調悪くならなかったんだよ?本当あほなの?秋緋……嫌なのもわかるけど、もう少し自覚してくれない?」
おしかりを受けたその日の放課後、バイト先の冷凍庫で氷漬けになっていたのを無事保護したこと……一応、報告しておいた。
見つからないまま定期的に癒してもらうのも悪くなかったかもな……と、少し考えたことは……内緒だ。




