夜道は気を付けて③
おててつないで帰路を歩く。
背中に突き刺さる視線が痛すぎる……なんで実の姉と並んで歩いているだけなのに、ここまで居心地悪い思いをせにゃならんのだ、まったく。
結緋さんの話を聞くと、東雲から連絡があった後、とんでもない速さでやり切れる仕事をできる限り済まし、急ぎではないものはしばらく見送りにしたそうだ。よって、しばらく休める時間ができた……というか、無理やり作ったということらしい。
ここにくるまで5分もしなかったけど、いったいどうやったのだろうか。
「よくよく考えたらの、秋緋が危ないのに家で仕事などしてる場合ではなかったのじゃ。もっと早く来ておれば、このようなことにならなかったかもしれないというのに……紅司郎は毎回大きな口をたたいておるが実際ダメダメじゃな、少しお灸を据えないといかんの」
わかる、わかるよ結緋さん。
親父はにもしていないわけじゃないのはわかるんだが、俺から見ても、目に見えた行動をしている感じじゃない。
守るためにこっそりと術だかをかけて遠目に見てるってかんじ。
「紅司郎様はこの土地の気の流れの乱れを正さなければならない大きな仕事を担っているのと、学校での教師としての役割、そして【筒師】の教え子を鍛えなければならない。あとはたまに小さな依頼もこなしておいでですからね。それでも自分の愚息の為に自分の持てる力の大半を注いでいるのです……感謝するのほうが妥当かと……」
珍しく茨木が真面目な説教をしてきた。
そう言われると……文句ばかり言うのも、これ以上のことを望むのも、気が引けてくる。
「むぅ……どうも私も秋緋のこととなると事を広く見て捉えられないようじゃ……むしろこれは褒美が必要なことなのじゃな!」
「それはいらないでしょう、つけあがります」
茨木よ、どうしたいんだ俺の親父を。
あと俺は、愚息ではないはずだぞ。
そうだ、愚息じゃないってところみせなきゃだ。
「結緋さん、今度学校の行事でちょっとした遠征をするんだけど、親父がその期間で俺自身が使える防呪の術を教えるとか言ってるんだ。でも、せっかく結緋さんが来てくれたのもあるし、その、予習というか……」
「秋緋……つまり【筒師】としての学びを受けたいということじゃな?!」
そうなんだけどそうじゃないんだよなぁ?
全部のことを教わるんじゃなくて、親父の言ってたその防呪の術がどんなものなのか事前に把握しておいて、行事の時は普通に学生として過ごせたらと思っているだけなんだけ――。
「姫子様、秋緋様はそこまでの努力をしようとしているわけではありませんよ?先ほどの私の発言に触発されて紅司郎様にいいところみせてやろうとでも思っただけです」
はいはいそうです、そういうことになるりますよ。毎度毎度棘のある言い方しかできないのかこいつは。
「なれば、そのどっきりに私も協力しようではないか!楽しみじゃ楽しみじゃ!さ、はようかえろう!」
とりあえず家に帰って予定立てられたらいいんだが。
俺には明日もまだ学校はあるわけで……このあとすぐに取り掛かるのはさっきの超運動で俺の体力は結構ギリギリの状態。
是非、やめていただきたい。
東雲も結緋さんを笑ったせいで、茨木にかなり深めのボディブローを食らい、術の発動で弱っていたせいもあって風船のように浮いているだけになってるので、なにかあった場合役に立ちそうもない。
「姫子様、あまり派手に指導なさいますと感づかれてしまうかもしれません。急く気持ちは分かりますが、ここはひとつ、落ち着いて動く方がよろしいかと思いますよ」
「茨木……実はお前、俺のこと……」
「勘違いしないでください、無理して倒れられても世話するのはごめんですし、姫子様も悲しみますので」
わかっちゃいるけど結緋さんの為イコール俺への優しさになっているのだよ、茨木くん。
「おや、ふたりそろっていたんだね?おかえり」
いつもなら俺の部屋に上がり込んでいるのは壱弥なのだが、今日はとっても様子が違った。
「夜兄……?」
どう考えてもありえない人がここにいるわけなんだが。
確か西の方に乗り込んでたって聞いてるけど、そんな早く帰ってこれるものなのか?俺の兄ちゃん姉ちゃん仕事早すぎでしょ、物理的に。あ、でも捕まったり襲われたりしたわけじゃなくてよかった。
「夜!おぬし無事に戻ってきておったのじゃな!よかったのう!して、なぜ秋緋の部屋で茶を楽しんでおるのじゃ?」
本当にそれだよ。誰かが勝手に俺の部屋で茶を飲んでるのは見慣れてる光景で、プライバシーもなにもあったもんじゃないのはわかりきっていることなのでさほど驚きはしなかったが、いま目の前にいる人物の方が驚きなわけで。
「驚かせしまってごめんよ。そのまま家に帰ってしまうとやれ会議だの集会だの呼び出しだので秋緋をかまう時間がなくなってしまうからね……ちょっとだけ、ね?」
今、実家は、とんでもないことになってるんじゃなかろうか。
「確かにのう……私もずっとこもってしまうことになるしの……たまにはこんな時間も必要じゃな」
「うんうん、戌井も今は小鬼たちを見ることになって家にとどまっているから問題ないよ」
戌井が犠牲に……どうか生きていてくれ。
「夜くぅぅん!心配したんやでー!」
やはり東雲は復活したか。夜兄を慕う気持ちは妖怪一あるもんな。俺に見せる表情や行動とはまた違う、心から大事にしてるってのがわかる。
夜兄には敵わないのは百も承知し、俺と東雲は信頼関係を気づいて契約したとかではないし……って……東雲が振り向いてなぜか頭を撫でてきている。
「ぬふふ、ちゃぁんと秋くんのこと大事にしとるで?夜くんはほんまに特別やからそこはごめんなんけど」
きもちわる!!
「秋緋、東雲との出会いと契約のことは本当にもう気にしなくていいんだよ。わたしも彼がそこにいてくれてることで安心しているのだからね?まぁちょっと……胡散臭いところがあるのは事実だけどね、ふふ」
ほんのちょっとだけ、嫉妬というかやきもちというか。けど、そんな理由も優しく理解してくれる夜兄のことを嫌いになることはできないし、東雲がこんなに魅かれる思いもちゃんとわかってるよ。だから、東雲、そこをどきなさい。
夜兄の隣はボクです。
「どうやら邪魔だったのはショタ狐のほうだったようですね」
「くふふ、こればかりはキツネの負けじゃのう~私も仲間にいれてもらおうかの~」
「うっうっ……しゃあない、大人しゅう引き下がっとくわ」
「ふふふ、こっちだったんだ?ごめんごめん」
と、俺と結緋さんに挟まれて座る夜兄は照れくさそうに笑っている。ひとり占めにはできないけど、何事もなく帰ってきてくれた兄を労う役目は渡してもらおうか。
「それで夜よ、ゆっくり過ごすのは良しとして、直接ここに来たのじゃから家まで持って帰れない話があるのじゃろ?はよう申せ」
結緋さんは早速と言わんばかりに夜兄を問い詰める。
ここにいるってのは、家業の合間にゆるりと報告できるようなことじゃないことは明白だ。
「そう、急を要するからね……と、食べながらでも大丈夫だからあたたかいうちにいただこうか?」
いつの間に用意されていたのか……茨木が作った食事を口に運びつつ、夜兄は少しずつ話始める。
「紅司郎から聞いていたあの転校生のことなんだけど、ちょっとまずいことになりそうなんだよ」
確かに存在自体がまずいことは東雲が言っていたような理由も含め理解できる。自分の意志でなく、利用されてるかもって。
「持っても2週間……それよりも、短いかもしれない」
「秋緋に被害が出ておるのは私もさっきみてきたからわかるんじゃが、それ以上の危険が迫っておるのか?」
「ちがうんだ、その転校生が死んじゃうんだ」
俺は勢いよく口から米粒を吹き出した。




