俺を取り戻せ!④
見上げた先、酒天たちに気を向けていた夜兄が声に気づいて振り向き、俺と目が合う。
驚いた表情……そりゃそうだろ?隠して保管されてた自分の体が、ここにあるんだから。
「ははっ……いいよ、乗ってあげる」
これに乗ってこないはずはない。
複雑な笑みを浮かべ、ゆっくりとこちらに降りてくる夜兄。
それに合わせて、俺も結界の中から出て近づく。危ないのはわかってる……でも、近づかなきゃならない。
そんなわけだから東雲、頼りにしてるぜ?
「俺は争いごとは本当はごめんなんだ、妖怪だろうと人間だろうと傷つくのは見たくない……あの時から……いや、物心ついた時から、ずっとそう思ってる」
「知ってる」
「だからちゃんと話がしたい……夜兄、なんでここまでするんだ?」
「なんで……だって?」
鼻で笑われた。そんなに変なことを言ってるか?
「秋緋、君が生まれた時はわたしだって嬉しかった。かわいい弟だってちゃんと認識してたよ……でもね、父様も母様も僕を見なくなったんだ。あんなに頑張ってたのに、秋緋しか見なくなった。結緋も同じだっただろうけど、女であったおかげで役目の為にその場にいなかったから、かわいい弟で止まってる、幸せだよね」
「かーちゃんは夜兄のこと心配してたし、後悔してた。ちゃんと大事に思ってるぞ!自分から離れたんじゃないか……!」
そう、かーちゃんから聞いてる。自分から引いたってことなんじゃないか?
「あぁ……そう思われてるんだね、やっぱり……わたしを見てくれてはなかったんだ……くくっ……ははははっ!」
悲しげな表情から一転し、不敵な笑みを浮かべて笑い声を上げた。
「父様も母様も秋緋秋緋秋緋あきひ……!!なんだよ!そんなに三血混合が大事?正しい血統で生まれたわたしの立場はどうなる?はやく力になれるようにと、頑張ってつらいこともひとりで全部耐えてきたのに!そんなに秋緋がかわいいのか!」
俺めっちゃ嫌われてる……。
「わたしが帰ってきてもすぐに秋緋、仕事で功績を上げても褒めてくれない、かまってくれない、話を聞いてくれない!」
ん?
「わたしだって父様と母様と話をしたいし、新しい術の勉強だって見てほしかった、でかけたりしたかったし、お風呂だって一緒に入りたかったし一緒に寝たりもしたかった……それを全部とって……」
これは、もしや?
「秋緋はずるい!父親がふたりもいて!なんでわたしだけこんな……惨めに……体も取られて……わたしになにも望んでないなら、もうめちゃくちゃにしてやるしかないじゃないか……」
嫌われてるというより、これは……弟ができた上の子の、お母さん取られたァァ!っていうアレだ。
結緋さんを見てたのにな、もう少し理解すべきだった。真砂の家に生まれた子供の成長の仕方ってやつを……力だけは先についてしまい、体の成長と心の成長が遅い!
「夜兄……それさ……」
「自分のせいだって言いたいの?」
夜兄に詰め寄り、両手で襟を掴む。そして、最近覚えたあの糸を素早く身体に回した。
「子供の癇癪っていうんだよぉぉぉぉ!!!」
「は?うわっ?!」
俺は反転し、夜兄を背負投げ。滑り込むように棺桶が着地点にいらっしゃる。ナイス壱弥、ナイスコンビネーション。
バシュッと一瞬光をあげる夜兄の体。
「ちょっと強引だったんじゃない?」
「いーや、これくらいでちょうどいいんだ」
そうさ、これくらいしたってバチは当たらない。それに、結果的に夜兄は自分の体を取り戻すことになるんだから。
「ヒュッ……はっ……ゲホッゲホッ!いたたた……」
どういう状態で保管されてたかはわからないが、魂が戻った夜兄の体は即座に血が通い血色が戻り、波を打つように呼吸をはじめ、胸が弾む。
「おかえり、夜兄」
「体が固い……動きにくい……秋緋、どうして……」
気の抜けた顔、幼い顔。外見は俺より1つか2つ下ってところだな。まぁ結緋さんがあんなだから、夜兄もそんなもんか。
「はぁ……これから俺の言うこと、ちゃんと聞けよ?」
「え……?」
深呼吸して。
「いいか夜兄!俺だってな、記憶無くしてから親父に構ってもらったり、遊んでもらったなんてほとんどねぇんだよ!でも、嫌いになったことはないぞ!夜兄もそうだろ?大好きだって気持ちがでかかったからだろ?それをまっすぐに伝えてやりゃいいだけだったんだよ!」
「そんな簡単じゃない……家のしきたりとか、わたしの立場とか……」
すねてるような表情をする夜兄……そのおでこにデコピンをかましてやった。
「……っ!!」
「察しの悪いかーちゃんも、ととも悪い!大いに悪い!だったら後継者としてじゃなくて、夜緋呂としてガツンと言わないと!本当の気持ちを押し込んで我慢する必要なんか無ないんだ!ととにしてしまったことも、今からでも遅くなんかねぇからちゃんと誤ればいい!家族なんだ……喧嘩したっていいんだ……難しい言葉使って、立場を利用して、それを言い訳にしないで、堂々と文句言えばいいんだよ!」
「でも、また……否定されたら……わたしは……こわい」
自分を見てもらえなくなった時の嫌な気持ちなんて、何度も味わいたいもんじゃない、わかる。
でも、今度はひとりじゃないよ。
「任せろ夜兄!怖いなら俺もついてってやる!俺だって散々な目にあってるからばんばん文句言っちゃるもん。もちろん、夜兄にも言いたいことは山ほどあるから覚えといてよ?……一緒に、大好きも大嫌いもぶつけてやろーよ」
「あき……ひ……」
ポロポロと……夜兄は大粒の涙を地面に落として泣き始めた。
なにかが切れたかのように、砂々羅鬼の動きと攻撃が止まり、虫の鳴き声だけが聞こえる静かな神社の境内へ変わっていく。
「夜兄はさ、力も才能もあるから過剰に期待される……それに応えなきゃって、重圧もあったんだよな?でも、心がそれに追いつけなくて苦しくて、力を使って思う通りにしてやろうって、間違った方向になった。あの時の俺はまだ小さかったから、話も聞くことも、気づくこともできなくて……ごめん」
「ふっ……ぇぇぇええん!!ごめん、ごめん秋緋ぃっとうざまぁぁぁ……っ!!」
うん、今はいっぱい泣いてくれ。俺も泣きたいけど、我慢する。
「よしよし……もう大丈夫」
泣きじゃくる夜兄を抱きしめて、背中をとんとんと落ち着かせるように叩く。それにしても、我が家の兄弟は俺が末っ子にも関わらず……どうしてこうも、幼すぎるのか。
「終わりましたか……なかなか良い運動になりました」
「よく言うぜ、ボロボロのくせによぉ?」
戦闘を終えた酒天と茨木がこちらに向かってくる。
終えた、というよりは、動きが止まったから対峙する必要が無くなった、だな。やっぱり、魂だけの弊害かな?意志を持って動いてたわけじゃないようだ。
「夜兄、砂々羅鬼戻せるかな?」
泣き疲れ、少し落ち着いてきた夜兄にお願いする。
「うん、わかった。父様、おいで」
スゥッと夜兄に吸い込まれるように、砂々羅鬼は消える。
「私自身を筒にしてるんだ……父様だけは」
なんて愛しそうに笑うんだろうか……やっぱり、大好きなんだな。
「夜くんんんん!よかったぁよかったぁぁ!」
忘れてた、東雲。とりあえず一歩だけど、お前の望むようになってるかな?
「ね、これからどうするの?夜緋呂さん次第だって事だったけど?」
一段落といった様子で壱弥が話しかけてきた。
「ん?あぁ……とりあえず親父のとこ行ってから、かーちゃんとこ連れてってもらって、当主になっとこうかな」
「は?」
「え?」
「へ?」
「なんて?!」
まぁまぁ、そう驚くなって……考えが、あるんだからさ。




