ストーカー?①
4月下旬、週末のバイトを終えた俺はいつもの土手を歩いている。あれから2週間、5月も近づき夏に変わろうとする風が心地よい夜の8時過ぎ。
親父が来るのはGW明けになる。自分なりに対処法を探してみたが見つかるはずはなく…それまでは【不視】能力の件はお預け、我慢するしかない。が、意外にも快適に過ごせている。問題があるとすれば…
「よい仕事をしている」と小鬼に対して壱弥は言うが、毎朝俺の唇を奪い、目を覚まさせてくれるのはよい仕事なのかということだ。オスなのかメスなのかわからない人外の何かに目覚めのキスをされて嬉しい奴がいるものかっ!俺だっていち男子としておはようのキスは可愛い子がいいよっ!俺の気持ち分かってくれます?!はぁ…あともうひとつ問題が。
なんの前触れもなく俺は勢いよく振り返ると、視界の端で白い布がひらめいた気がした。確かではない、確かではないがここ1週間ほど何者かに見られている気がするのだ。登下校中やバイトの帰り道など、ふと振り返ると今のような白い布、恐らくスカートの裾だろうものがちらりと見えてすぐ気配が消えるのだ。今もそう。小鬼たちが反応しないのはそれが妖怪等の類いではなく人で、布が見えるということは俺にも猫には見えていないし、人である確かな事実だ。
こんな俺に好意を持つ女子が!とうとう春が来たか!と一瞬錯乱した思考になったがそれは内緒だ。立て続けに色々起こるものだと感じながら帰り道を進み、アパートの門に手をかけ、目線を俺の部屋のある方へ向けると、いる。
なんかいる。
こんな時間にいてはいけないのがいる。
あ、俺の部屋の前にいるのもよろしくないしわけわからないけど。後ろ姿だがわかる、赤いカーディガンを羽織っていて白いワンピースで、大きめの帽子を深くかぶっている…小学校1年生くらいの女の子。
女の子は動かない、俺も動けない。
そら固まるわ。
どれくらい固まっていただろうか、女の子が振り向いてこっちへやって来る。
「今晩わ」
「…こ、こんばんわ」
会話が続くわけがないし、女の子も動かないし喋らない。何かアクション起こさなければ…よしっ…。俺は「よ、夜遅いから気を付けてね」と言って足早に女の子の横を通り、自分の部屋へ―。
「お前の部屋か?」
鍵を開けたところで声が…女の子は後ろにいた。
お前って年上だぞ…?
「お前の部屋なんじゃろう?入らんのか?」
少し怖くなった俺は女の子を無視して扉を開けて急いで中に、扉も急いで閉めようとしたが…悪徳セールスマンのごとく女の子は閉まりかけのドアの隙間に足を挟んできた。「わっ?!大丈夫か?!」とさすがに小さい子だから怪我させたらまずいと思わずドアを閉める力を緩めた。
「邪魔するぞ。」
緩めた隙をついて女の子は部屋に。
は?
「ふむ…どうしたのじゃ?はよう入るとよかろう?」
意味がわからず「え?」とか「あの?」とか困惑していたら、「さっさと茶でも出せ」と言わんばかりの圧力に負けてしまい部屋に上がる。なんでこんな子供に負けてるんだ俺は…。
*****
「お茶がないから…水だけど…。」
机に水のはいったコップを2つ置く。
女の子が部屋に上がって15分、帽子のせいで顔はまだ見えないまま。人だとわかってなければ恐怖体験でテレビの番組に投稿できるだろうな…。俺はただ座って待つ。言い様のない圧力が部屋に満ちてる気がする…何なんだ…。長々と、品定めでもするかのように部屋を見渡して「ふむ。」と一言、女の子は満足したのか、おもむろに帽子を取る。
帽子の中に納めていた髪が弾みながら下ろされた。丁寧に結われた綺麗な白髪で、毛先だけ紅い色に染まってなんだか不釣り合いな感じだ。顔は幼いながらもしっかりした面立ちで、可愛いというより綺麗に近い、瞳は金色。俺は思わず見とれてしまった。人なのにそうじゃないみたいな…あと何故だか懐かしい感じがしたんだ。
数秒間、見つめあった後、女の子の表情が少しずつ変わる。
「うぅ~…。」
どうしたんだろ?なんか泣きそうだぞ?
と、思った瞬間女の子は俺に抱きついてきて大声で泣きだした。
「わぁー!もう無理じゃ!無理なのじゃぁ~!寂しかったのじゃ~!会いたかったのじゃ~!ビシッと決めるなんて無理じゃ~!わぁー!」
まぁ俺はキョトンですよね。わんわん泣きながら俺を抱きしめる。が、だんだん絞めに来てる、オチソウ。
「いやはや…姫子様はやはり辛抱できなかったようですね。」
「い、いばらき?!なんで…ァ、しむ…」
いつの間にか部屋に侵入している壱弥のごとく見事に侵入していた真砂の使用人である茨木灯慈の発言を聞いたあと、俺は女の子の腕に落とされ意識を失った。