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駄能力

ごく普通のノック式のボールペンを壱弥が、普段使う時のようにカチッとペン先を出すと、土手の桜を散らしながら、春一番のような風が俺の脇を抜けて行った。


「そこに(ぬえ)出したんだけど見える?」


「はぁっ?!」


なんで町中で鵺なんかだしてんのこいつは!しかもボールペンが筒がわりって…鵺、可哀想じゃない?


【筒師】ってのは筒状の入れ物に専用の札を張り付け【妖怪】をそこへ封じ支配する。基本的に【筒師】である本人が夜な夜な筒を手作りして使ってる。一応俺にもこれくらいの基礎知識はあるが、ボールペンて…。それより見えるかどうかなんて当たり前じゃないか、なに言ってるんだ。


「…?」


ん?おかしいな?ここに出したんだよな?


「ぬえ?」


「鵺。」


嘘だ。だってそこにいるのは濃い茶トラの猫だぞ。


「ぅにゃーんって言ってるぞ、猫だぞ。」


そう壱弥に伝えるとやっぱりかーと言って頭を抱える。これが鵺なわけない、目付きはともかくモフモフの毛皮のこいつは猫だ。俺はこの猫をわしゃわしゃと激しく、かつ優しく撫で回すと、ひっくり返ってお腹をだし喜んでゴロゴロ言いながら転がる。ほら、猫だ。


「秋緋、僕には低い声でおっさんが激しく悶えてるように聞こえてるんだよ。割と拷問だよ。あ、すごい、こんなデカイの持ち上げてる。」


俺には猫に見えてる鵺を持ち上げて、もう一度よくみるがどう頑張っても、猫にしか見えない。壱弥がもう一度ボールペンをカチッとすると、猫はすっと俺の手から消えた。


「…どう言うことだ?」


はぁ…と壱弥がため息をつき話始める。


「秋緋は自分が【見えなくなる】為にしばらく行動して生活してたでしょ?ちょっと前からだと思うんだけど【妖怪】と呼ばれてる形の生き物をちゃんと見た記憶ある?」


考えてみると親父と最後に話をした日からしばらく見てないような…代わりに近所に猫が増えたのを感じたな。


「今、秋緋に発現してる力は【不視(ふし)】の能力っていうやつなんだ。うまく使えば便利な能力なんだけど、秋緋にはでたらめに発現しちゃってる。」


【不視】?不死ならカッコいいのに何だそれは。


壱弥の話によると、俺のご先祖様が修行中に『視えていることが全てではあらず』って悟り的なひらめきで編み出した能力で、人間に化けるのが上手な妖怪や、隠れるのが上手い妖怪などに効果を発揮する。何故なら【不視】で見て触れた【妖怪】の類いはその本人の思う形になり対処しやすくなるというある意味最強の能力らしい。視力に力を集中するため、守備に力が回せないのが弱点ではあるが【筒師】であれば見えることが当たり前だから中々たどり着くことができない稀な能力だって。


ただ俺に発現してる【不視】の能力は、ただ単に妖怪を否定する意志が特化して、かつ俺が好きなものに見えるようになってしまっただけで、周りには何も見えてないし影響もないから、さっきの鵺の例で言うと俺は猫を触っているが、一般人には地面に向かって手をひたすらに動かして喜んでいる危ないやつに見える有り様。


おい…駄能力化してるじゃないか…。


あと、昨日の出来事のショックで、ギリギリ守りにまわっていた力が乱れて薄れてきてるんだと。なんという不幸の知らせだろうか、見えなくなってるのに危険が増すなんて。主に世間からの目の。


「あとこの小鬼は神様に近い存在みたいだから見える形がそのままだったみたいだね。秋緋の力は流れる血から来てるもので、僕がその乱れをどうこうできるものじゃないから、おじさん来てから相談するしかないよ。それまではこの小鬼たちに守ってもらうといいんじゃないかな?」


『み!』『ちー!』


俺のポケットから顔を出して自信満々に返事をする小鬼ども。…今は現状を受け入れるしかない、か。猫に関わらなければ普通の生活とかわらないし、そういうことにしよう。そうじゃないと持ちそうにない…。親父は何か立て込んでいるらしくこっちに来るのが1ヶ月先になるとのことだ、何やってんだよ…。


とりあえず壱弥も調べてくれるらしいし、俺も親父が来るまでに何か対処法を考えてみるか。それでどうにかなるなら親父は必要ないしな。よし、昨日の出来事は無かったことにして今日から新しくスタートを切ることにしよう。


駄能力ライフをなっ!



…泣くな俺っ!

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