小鬼ブレイク
満身創痍の体を引きずりながらやっとの思いで部屋の扉の前までたどり着いた。壱弥は全く疲れていない様子で「僕、今日はこれから実家に行かないといけないから、また明日学校でね。」と軽く挨拶をして自分の部屋に消えた。詳しいことは教えてもらえず。
なにかあったのだろうか?
おっと。腕時計を見るともう7時過ぎになっている。風呂入って飯食って……時間配分を考えながら俺も部屋に入る。
「おかえりなさいです、お着替え用意したです!」
「飯ももうすぐできる、汗を流してこいよ?」
「おーサンキュー」
小鬼たちと軽く言葉を交わし、シャワーを浴び、ボロボロのウェアを洗濯かごに投げ入れる。「たくさん汚れてるです!頑張ったですね!」とみーの方が嬉しそうだ。ただぶっ飛んだだけというのは申し訳ないので黙っておく。
出来上がった朝食をテレビを見ながら食べる。時間を考慮してくれたちーの方がすぐに食べれるようにオニギリにしてくれていた。中々に優秀だ。
「今日も暑くなりそうですです」
「水分しっかりとれ」
「心配すんなって、んじゃ行ってくるわぁ〜」
いってらっしゃーいとハモって聞こえた。見送られて家を出るのは気分がいいな、結構疲れてたけど少しよくなったかもしれない。
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小鬼たちは秋緋が出ていった後、閉じたドアを見つめながら、ふたりでこんな会話をしていた。
「あきひさん気付かなかったですね」
「相当疲れているな……夜ご飯はスタミナのあるものにするとしよう」
うんうんとお互いに頷いて、食器の片付けを始めた。
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――午前8時頃。
本日2度目の通学路を、学校に向かって歩いていく。さっきと違って、会社へ出勤する人や、俺と同じ様に登校している生徒たちで騒がしい感じだ。ランニング……の時は初日ってのもあって、余り集中出来なかったが、なんとなく足元から感じるものがある。
なるほど、こういう感じなのか。未熟ながらも気の取り込みというのを試しながら、校門の前まで来ると向こう側から沙織里もやって来た。
「おはよー!あーちゃんなんだか輝いてるね!」
「おう、はよーっす」
沙織里も輝かしい笑顔で元気いっぱいだ、平和そうでなによりだ。じっと足元を見つめてから沙織里が笑い出した。
「あはははー!ちょっと足元光りすぎて笑えちゃう!」
言われて気付いたが、めっちゃ光ってる。
なんか魔法を使ってるような、召喚されてきたような……そんな人みたいになってる。慌てて全身でバタバタして無理矢理消したが、その様を他の生徒も見ており、俺は避けられ、変な目でチラ見されたりした。
ナイスタイミングで話しかけてくれたもんだよ沙織里さん。避けられるのは今に始まったことではないからまぁ、ね……教室に急ごう。
学校に親父がいるっていう不安はあってソワソワしていたが、さすがに昨日の今日じゃ親父も忙しいんだろう。なにごともなく、普通の1日が過ぎていった。が、放課後親父に呼び出された。やっぱり、なにかしらアクションしたがるのな。
――午後4時半頃。
無視しても乗り込んできそうなので、保健室へ真っ直ぐに向かい、中にいた親父へ文句を言ってやった。
「呼ぶのは構わないが、わざわざ校内放送で呼ぶんじゃねぇよ!問題児か俺は!」
「ある意味じゃ問題児だろ?はっは!怒るなよーお前顔こえーんだから。ほら、昨日渡しそびれたやつだ、持っていけ」
オネェ言葉だったら殴ってるとこだったわ。ひらりと白衣をひるがえし、引き出しから取り出した紙に包まれたなにかを投げて寄越した。
「なんだこれ?お札と……石?」
包んでいた紙はお札で、石は真っ白でつるつるとしたきれいな丸い玉……こんなもの、なにに使うんだ?
「使い方は簡単だ。水を張った容器に1滴だけ自分の血を落としてそいつを浮かべ、手をかざし、気を集中させろ。水に混ざった血液が玉に移れば合格だ、お前の修業は終わり」
あっさりそんなことを言うが……「試しに1回やってみろ、面白いぜ?」って笑いやがる。
これは、なにかあるわ。
こういう、含みを込めていたずらにものを言うところが、親父の嫌いなところのひとつだ。
「『ありがとうございます、精進させていただきます。』は??」
「ありがとうございますっ精進しますっ!!じゃあな!!」
乱暴に保健室の扉を閉めて俺はアルバイトに向かう。くそ……仮にも師弟関係なんかになったせいで言いたくもないことを!
呼び出しのせいで余計な時間を食った。ギリギリアルバイトには間に合いそうでよかった……修業も大事かもしれんが、アルバイトも大事なのだ!
――午後5時半頃。
「おはよーございまーす」
「あーおはよー。真砂くん、休み中来れなくてごめんね、ありがとう」
ヤンキー先輩はほんとに見た目と裏腹で、年下の俺にもとても礼儀正しい人だ。
コンビニの利用客はなんでこの時間帯は怖い顔の人がいつもいるのだろう?と、思ってるだろうが、俺はこの人と仕事する時は、なんだか癒される感じがするから、好きだ。朝からの疲れなんて、忘れてしまうくらい。
そんなことを考えていたら無意識に見つめてしまっていたらしい。
「え、なに見つめてるの……?え?こわっ……」
ぞわっとした反応をして怯えるヤンキー先輩。そんなつもりではないですし、そんな気はありません。
ヤンキー先輩との距離はあまり縮まらないまま、アルバイトの時間が終わり、真っ直ぐに家に帰る。
――午後10時頃。
「おかえりですー!おつかれですなのですー!」
「先に飯を食べな?出来立てだから」
「おー助かるわ、いただきまーす!」
小鬼たちに出迎えられる……俺の帰宅時間に合わせて温かいご飯があるのはいいなぁ。
しかも疲れていることを察してか、豚のしょうが焼きがメインディッシュでスタミナ抜群!ご飯がすすむ!
「お風呂も溜めてあるですよ、ゆっくりするといいですよ!」
至れり尽くせり……みーの笑顔が眩しいぜ。
おっと、しみじみ浸ってる時間もない。
課題のプリントがあるのを思いだし、急ぎながらもしっかりと味わい食事を済ませる。
「片付けは任せろ」
ちーは無愛想な感じだけど優しいな。ツンデレさんかな?自然と自分の顔が緩むのがわかる。
ちょうどよい温度の湯船に浸かりながら、明日からの修業を含めてのスケジュールを頭のなかで組んでいくと、ため息が出てしまった。
――午後11時過ぎ。
風呂から上がり、みーが用意してくれた寝間着に着替えた。机に向かってプリントを始めると、ちーがホットミルクを作って持ってきてくれた。
「お?ありがとう、はぁ~……おちつくわぁ」
と、ホットミルクをすすりながら、ちーの頭を撫でる。角が邪魔でうまく撫でられないのだが、なんだか嬉しそうな、照れ臭そうな顔をしている。
「ぼくもぼくも!」と、その様子を見ていたみーも、腕の間から顔を出し催促をする。しょうがないなぁと両手でふたりの頭を撫でてやる。
ちーはサラサラで、みーはフワフワだなぁ……ふふっ。
……
ん?
……おぉう?
…………あるぇ?
おかしいな?と、手を止めるとふたりと目が合う……ふたり?2匹じゃない、ね?
サラサラの黒髪の間から2本の角をのぞかせる、しっかりとした顔立ちの4歳くらいの見た目の……、
「ちー……?」
「うん?どうした?」
前髪の生え際から1本の角を生やす、薄茶色のふわふわ巻き毛……ほんわかした雰囲気の、同じく4歳くらいの……、
「みー?」
「はいですー!」
人型?!
「はぁーーー?!なんだお前ら?!なに!?なん!どゆことです?!」
「やっと気づいたですねぇ」とみーがクスクスと笑う。俺は状況が飲み込めずリラックスムードもいっきにふっ飛んで……意識も飛んだのだった。
気絶しました、はい、さようなら。
「あらららら……ねちゃったですか?たおれたですか?」
「……水分不足か?」
これが夢であることを、願う。




