新生活
希望溢れる光とはこの事を言うんだろうか…素晴らしい朝だ。
桜の花びら舞う土手を歩きながら俺は行く。
この春から俺、真砂秋緋は古くさい家を捨てて独り暮らしを始め、難関と言われていた私立水瀬高等学校へ通うこととなった。
むふふっ♪ニヤニヤが止まらない!この時をどれ程待っていたか!家業の跡取りなぞするものか!胡散臭い世の中に日の目を見ないような怪しい職業に就くより、俺はごく一般的な仕事をする!
…安定した公務員とかがいいな、なんていうのが夢。こんなことが俺の夢になるのも無理はない、と思う。俺の家は【筒師】と呼ばれる法師を家業としていて、陰ながら世の為人の為にひっそりと働く一族。
結構儲かるようなんだが、この家業は金の問題ではない…とおもっている。というか、家が無駄にでかい癖に何をしてこんなでかい屋敷なのか謎なせいでご近所さんたちの噂になってしまっている。
陰ながらっていうのは一般的な世間様にとってこういうことになるんだ、って実感する事態だった。まぁ、やってることを伝えたら伝えたで怪しさマックスなのは変わらない訳なんだが。
更に言えば、俺は目付きが悪く、表情も固いらしく(自分ではそのつもりはないんだが)その風貌と実家のせいで中学生までのあだ名は親分やら、ボスやら、世界の裏家業縛りみたいなことになった。
ひどい。
更に更に言えば、妖怪たちやらが見えるせいで誰もいないのに一人でツッコミをかましたり、驚いたり。その行動のせいで普通の友達はできなかった。
つらい。
これはすべてこの家に関わっているせいだと確信した俺は死に物狂いで牛乳配達のアルバイトをして金を貯めて独り暮らしの栄光を勝ちとり、今に至るのだ。離れればきっと『見えなくなる』。普通になれるはずだって。
…っと、何だかんだ考えながら歩いてたらあっという間だったな、白く光る学舎が眩しい。
「あーちゃーん!こっちだよー!」
「なん……だ……と?」
おかしい。
俺の目がおかしくなったのだろうか。なぜこんなところにあいつがいるんだ。
この学校はN県にあるんだ、H県にいるはずのあいつが!
なんで!
俺が通う学校の女子の制服を着て!
俺に向かって!
手を降りながら!
満面の笑顔で!
駆け寄ってくるんだ?!
「あーちゃん?どしたの?顔怖いよー?」
「怖いのは元からかー!あはは!」…じゃない!怖くないっ!ってそうじゃない!…冷静になれ、俺…っ!しかしこれは由々しき事態…すべてを捨てて出てきたのにこいつがいたんじゃ…。
「僕もいるんだなぁ♪驚いた??」
俺の心を読むかのようにまたひとり現れた。
「どうしてお前らがいるんだ……?」
この少しぽやっとしている女は俺の幼なじみの古泉沙織里。男の方は八塚壱弥ただの腐れ縁野郎。
「僕はほら、腐れ縁野郎だかんね、仕方ないよね?」
相変わらずこいつは心を読みすぎて怖い。本当やめてほしい。
「あれ?おじ様から聞いてない?今年から特別講師でおじ様がここに来るんだよー!それでね!私たちその科目受けたくて頑張ってここ受験したんだー!勉強一生懸命になっちゃってたからあーちゃんに言うのわすれちゃってたかな?あ、でもあーちゃんもその為にここ入ったんでしょ?」
今、俺は、どんな顔をしているのでしょうか。
むしろ生きてますか?
そういえば入学時の書類やら何やらの保護者サインをあっさりと親父がしたことになぜ疑問に思わなかったのでしょうか。
「僕、わかってたんだけど…受験前に秋緋があまりに熱く自分のこと語るから言うに言えなくて…ごめんね?でもまた一緒だからいいよね?」
心読みまくって空気読めないくせにそういう時だけ空気読むのもやめてほんとっ!こいつほんと中身真っ黒よ、絶対。
「ぜんっぜん…よくねぇええええぇえ!!」
俺の新生活への期待と希望は初日にして打ち砕かれた。
謀られたかのように同じクラスってどういうこと?
っていうか講師で来るって何?どういうこと?え?なんで黙ってたの親父?
どうしても俺は離れられない運命なのか?
…俺はこの日1日をどう過ごしたのかほとんど覚えていない。