もっと早く出会って入れば
あの約束をして早一ヶ月僕と杉下さんはすっかり仲良くなり、もう普通にしゃべれいていた。
今日も僕たちは図書館で勉強をしている。
「あ、また間違えてる。だから何回も()の累乗の計算は練習してって言ったじゃない。」
「いや家で何回もやったんだけどなかなか身につかなくて。」
「まあ、でもその分国語のほうは上達しているし頑張ってはいるのね。」
杉下さんは僕のやるきをそがないよう優しく、丁寧な口調で言ってくれた。
「鈴木君はさ、その凛さんに釣り合えるように勉強を頑張るって言っていたけれどその凛さんは今どうなの。連絡は取りあっているの。」
僕は杉下さんに勉強を手伝ってもらうにあたって、なぜ勉強を頑張るのかを言うように要求された。
別に秘密にすることでもないし、それでいいのならと正直に言った。
「いや。実は連絡先は俺持っていなくて。だから高校に入ってからは一切会っていません。」
情けない話だが僕は連絡先を聞くのが恥ずかしくて三年間聞こうとはしたものの聞けていなかったのだ。
「え、じゃあ今どこの高校にいるかもわかってないの。」
「はい。」
「それなのにその子のことを思って勉強を頑張れるってすごいわね。なかなかできないことよ。」
そういわれるとそうなのかもしれないが、僕は単純に凛に見合った人間になれるなら何でもよかったのだ。
ただたまたまに今自分にできることが勉強だったていうそれだけだったんだ。
「まあ、そうですかね。でもなんか今までの自分と違ってちゃんと目的を持って頑張れるからまったく苦ではないんですよね。」
「ふーん。」
杉下さんは僕をじっと見つめながら言った。
「な、何ですか。」
僕はちょっと顔が熱くなっていた。
「いや、別に。」
杉下さんには珍しく、そっけない返事だった。
そのあと誰にも聞こえないような小さい声で言った。
「もうちょっと早く出会ってればよかったな。」
「え、なんか言いました。」
「いや、別に。」
杉下さんはちょっとニヤッとしながら言った。
そのあと杉下さんはそっと僕に近づいてきて僕の顔を見つめていた。