8. Shall we dance?
レイアとゲオルクはフローラを夜会に取り残して、ガラガラガラと馬車で屋敷に帰った。そして、出迎えてくれたデーテにびっくり目で見られた。
「……お帰りなさいませ」
「ただいま帰りました」
レイアは全てを誤魔化すようににっこりと笑った。
「楽しめましたか?」
「そうねぇ……」
答えづらいなとレイアは思った。楽しめましたか?はい、妹の浅ましさを堪能しました。とてもよかったです。としか言えない。しかし、そのようなことは口にできないなとレイアは思った。
「ゲオルク様、どうしてとんぼ返りをなさったんですか?」
言葉を濁すレイアではなく、デーテはゲオルクに単刀直入に質問した。
「いろいろあったんだ」
ゲオルクはあとで話すと煙に巻いた。そんなにいろいろはなかったぞとレイアは疑問に思った。
「それより、レイア様!こんなにすぐのお帰りなられては踊っていないでしょう」
夜会と言えば!ダンスですよ!ダンス!とデーテは大変興奮している様子だ。
「せっかくですので、ここで踊ったらどうですか?」
そして、名案!とでも言うようにデーテはビシッと指を立てた。
「えぇ……」
いやだー、うわーー!!とその場にうずくまりたくなったが、レイアは耐えた。レイアは見栄っ張りなのだ。
「レイア、手を」
何とゲオルクはデーテの提案に乗るようだ。嘘だろ!
「私、本当に踊れませんよ」
レイアは困った顔で笑った。当然、レイアはあの両親達からダンスを教えてもらっていない。だから、フローラが教わっている様子を観察していただけで、見様見真似でしかできないのだ。
「ここには俺達以外に誰もいない。だから、上手く踊る必要もない」
「……そうですね」
そこまで言われればレイアは承諾するしかないなと思った。わかりましたよ!とレイアは後は野となれ山となれの気持ちで、ゲオルクの手を取った。
そして、二人は踊った。最初の方は息を合わせることに苦労したが、しばらくするうちに慣れたようだ。レイアは何とかなったなと安心した。
「踊れるじゃないか」
「ゲオルク様のリードがお上手だったからです。ちっとも苦手には見えませんでしたわ」
「少し練習したんだ」
「そうでしたの」
レイアは自分も練習しておけばよかったと思った。
「少しではありませんよ」
「デーテ」
ゲオルクは咎めるようにデーテの名を呼んだ。
「そうなのですか?」
「まあ……」
気まずそうにゲオルクは言った。
「ご友人のヘルマン様にみっちりしごかれていました」
「もう言うな……」
照れ臭そうにゲオルクはそっぽを向いた。夜会に参加するからといってわざわざ練習するとは律儀なことだとレイアは思った。
「素敵なお友達ですこと」
レイアは本心から思った。レイアに友達はいないが、ヘルマンという人がゲオルクにとって良き友であることは解った。それにしても、この屋敷の人は善き人しかいない。善き人にしか縁深くない。類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。胸はあたたまるが、レイアには物足りなかった。綺麗すぎてここにはいてはいけない気がするのだ。レイアは家族の浅ましさを思った。元の汚濁が私には相応しい。お似合いだ。