6. 食事を共に
それから、レイアとゲオルクは朝食を共にするようになった。薄々感じていたが、ゲオルクは口下手なようだ。レイアも口に物が入ってるとしゃべりたくない、美味しいご飯に集中したい、朝は眠い。これらの要因から二人の会話は必要最低限のみであった。意味があんのかなとレイアは思った。しかし、別に不都合はないし、食事を共にすること自体に意味があるのだろうと都合よく考えた。そのため、まっいっかとレイアは現状を維持している。
「急ですまないが、明後日の夜は空いているか?」
ゲオルクが珍しくレイアに話しかけた。
「ええ、空いています」
レイアは食事をする手を止めて答えた。こちとら予定なんてない、がら空きである。やるべきことはない。日々やっていることといえば、散歩、刺繍、ガーデニングくらいだ。この屋敷での生活に不満はないが、強いて言うならば、浅ましさを楽しめないことと時間を持て余していることくらいだ。ちなみに、掃除や洗濯などをやろうとしたら、デーテ始めとした一同にやめてください!!ときっぱり断られた。
それにしても、刺繍はなかなか楽しい。レイアは手先が器用というわけではないため、ちょくちょく失敗するが、それらを乗り越え、完成した時の達成感はとても素晴らしい。レイアはこの屋敷に来て、初めて健康的な趣味を見つけていた。
「どうかいたしましたか?」
話を戻そう。レイアはゲオルクにご用件は?と慎み深く聞いた。レイアはゲオルクの前では猫を5、6枚常備していた。
「夜会に誘われた。もしよかったら……、一緒に参加してほしい」
ゲオルクは夜会に誘われる人なんだとレイアは純粋に驚いた。夜会とはパリピのパリピによるパリピのためのパーティーである。レイアの目から見て、ゲオルクはパリピでもなく、パリピの友達にパーティーに誘われて参加するようなタイプには見えなかった。
「もちろんです。私でよければ」
ゲオルクのことなんかどーでもいいが、断る理由も選択肢も持ち合わせていないため、レイアは承諾した。もちろん、レイアは夜会には初めて参加する。
「ありがとう」
ゲオルクはレイアの返答を聞くと、ほっと安心したように少し表情を和らげた。鉄面皮が緩んだなとレイアはほーんと眺めた。ゲオルクが冷酷無比と恐れられている所以は仕事振りが大きいのかもしれないが、あの三白眼と抑揚のない声、乏しい表情も一役買ってそうだとレイアは思っている。根本的な性格に問題があるわけではないため、少なくとも、私生活において、冷酷振りは発揮されないだろう。よかったな、フローラ。
そして、レイアの中に二つの疑問が生まれた。かなりの優良物件であるはずなのに、ゲオルクはなぜ今まで結婚しなかったのか、なぜ我が家に縁談を持ちかけたのか。だが、レイアにとってゲオルクは別にどーでもいい存在のため、これらの疑問はすぐに忘れた。