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5. 塵は所詮塵

 レイアの希望通りフローラは動き出した。行動が早いのはいいことだ。フローラはあれからこの屋敷に度々訪れていたが、ゲオルクがここには帰っていないとわかると、彼の職場を訪れるようにしたらしい。デーテがゲオルク様のとこに押し掛けていると心外そうに話していた。接触回数を増やすことで親密な関係に繋がる。塵も積もれば山となる、健気なことだ。

「話がある」

 久しぶりに屋敷に帰ってきたゲオルクがレイアの部屋を訪れた。

「……何でしょうか」

 用があるなら呼べばいいのに、わざわざ出向くとはご苦労なことだとレイアは無関心そうにゲオルクを見た。相変わらず、落ち着き払った美形である。

「あなたの妹の話なのだが……」

「フローラがどうかしましたか?」

 フローラ関連で何かあったのかとレイアは一気に興味が湧いた。どういう子なのか、恋人でもいるのかと聞き出そうとするのかな。いや、それとも、フローラが姉は意地悪で……と法螺話を吹き込んでいるのかもしれない。あなたはそんな人だったのかと一方的に失望でもするのだろうか。それも悪くない。よいぞよいぞとレイアの心の中は湧き立った。

「職場に押し掛けるのはやめてほしいんだ」

 レイアは予想を大外ししたため、ガクッと肩を落としかけた。レイアの猫被りは完璧なので、そのような様子はつゆ程も見受けられなかったが。

「フローラは兄がほしいと言っていましたから、きっと構ってほしいのでしょう」

 レイアは仕方なさそうに優しく笑った。兄がほしいと言っていた?知らん、でまかせである。そんな会話をするほど姉妹仲は良くない。どうやらフローラは失敗したらしいとわかると、レイアは何とかフォローを入れようとしたのだ。だって、その方が面白そうじゃん。

「ですから、大目に見てほしいものですが……」

 レイアはたしかに職場に来るのは迷惑ですねと暗に同調する様子を見せた。ここで、わかってますよ感を出すと、次の話をスルッと飲み込んでくれるのだ。相手の話を否定せず、それとなく共感をする。すると、こちらが提案する解決策を、たとえそれがどんなに突飛で腰が重いものであっても、ちょっとはやってみようかなという気になってしまうのだ。

「では、その代わりに何か一つお願いを聞くというのはいかがでしょう?」

「お願い……」

 ゲオルクは顎に手を置いて悩ましげに眉を寄せた。

「ええ、フローラも無理なお願いはしないと思いますから……、いけませんか?」

 ダメ押しだ!とばかりにレイアはゲオルクをきゅるんと見つめた。フローラの真似である。斜め45度に顔を上げ、下から甘えるように見続ける。ただ、家族の浅ましさを見て、楽しんでいるだけではないのだよ、模倣もできる!猿真似に過ぎないが……とレイアは自嘲した。残念なことにフローラのような愛らしさをレイアは持っていなかった。

「……わかった」

 ゲオルクは渋々頷くと、見つめてくるレイアから顔をふっと背けた。どうやら眼力が強すぎたようだ。

「その……」

 用はこれで終わっただろう、早く出て行かないかなとレイアが不思議そうにゲオルクの様子を伺っていると、何やら話を切り出した。

「何でしょう」

 まだ何かあるのかとレイアは面倒に感じた。

「あなたは俺のことが嫌いか?」

「まだ、ゲオルク様のことはよく存じ上げませんので……、わかりませんわ」

 レイアは無難な回答をした。正直に言うならば、興味がありませーんだった。

「時間が合う時だけでよいのだが……、一緒に朝食を食べないか?」

 仕事柄、昼と夜は難しい。ならば、朝だけでも将来の妻と仲を深めようというのか。律儀なこってとレイアはゲオルクの生真面目さに感心した。

「ええ、もちろんですわ」

 レイアは可憐に微笑んだ。断る理由もない。例えあったとしても、承諾以外に選択肢があるのか、レイアにはわからなかった。









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