4. 新鮮採れたての浅ましさ
レイアはゲオルク邸でぬくぬくと暮らしていると、来客があった。妹のフローラである。
「一ヶ月振りですわね、お姉様」
フローラもレイアに負けず劣らずの猫被りである。外では姉を敬愛している妹を演じていた。
「ええ、皆さんお元気かしら?」
私もそれに合わせようとレイアは家族を心配する姉として対応した。
「はい。変わりなく過ごしています。お姉様は……、幸せそうですわね」
フローラはレイアの服を見た。最新の流行に沿いながらもレイアに似合うようにデザインされている。レイアの髪を見た。ブルーサファイアの髪飾りが赤い髪によく似合っている。レイアの首元を見た。瞳や髪の色と同じ大きなルビーが輝いている。耳にも同様のルビーのイヤリングが光っている。フローラの目の前にいるレイアは自分よりも格上の貴婦人として映った。
「うらやましいです、わ……」
フローラは歪な笑みをレイアにだけ向けた。フローラはそこは私の場所だ、譲れと言っているのだろう。レイアは妹の言葉を正確に把握した。そして、スタンディング・オベーション。心の中は喝采の嵐に包まれていた。素晴らしい!浅ましさポイント100万を上げよう。もし、これから何らかの行動に出るならば、もっとあげちゃうぞとレイアの心の中はフィーバー状態に入った。久しぶりの浅ましさにレイアの目には涙が滲んでいた。
「お姉様、わかっていますよね?」
フローラはその席を譲れ、もとい返せと念を押してきた。
「ええ、もちろん……」
レイアは深く頷いた。フローラが退出すると、レイアは堪えていた感動の涙が溢れた。最高の浅ましさである。一度は嫌だと言ったものを欲しがる図々しさ、そしてもらえると疑わない傲慢さ。何と素晴らしい。久しぶりの浅ましさを浴びて、レイアは思わず涙がちょちょぎれてしまった。
「レイア様、いかがしましたか?」
レイアの世話をしているデーテが心配そうに声を掛けてきた。
「いいえ、何でもないの……」
レイアはお上品にハンカチで涙を拭うと何事もなかったように振る舞った。
デーテは不安そうにレイアの様子を見ていた。まさか、妹の浅ましさ最高!とブチ上がった末の涙とは思うまい。
だが、フローラと話している最中にレイアの目に涙が浮かび、フローラが退出すると涙が溢れた。デーテにとって優しい主人を心配して、詮索をしてしまうことも致し方ないと言えるだろう。また、デーテはレイアがこの屋敷に来た時の様子を知っている。貴族の御令嬢にも関わらず、使用人よりもひどく汚れ、着古した服を着ていた。手は荒れ、世話をされることに不慣れな様子だった。家族間に何か問題があり、そのための涙かもしれない。そのように訝しむことに何ら不思議はなかった。