終. 浅はかな家族が最高過ぎる!
その後、フローラと両親は王太子唆し罪やら嘘ついて騙した罪やらで捕えられた。他にも、横領や傷害、脅迫などがつらつら挙げられている。思ったよりも罪がドカ盛り、罪のバーゲンセールやとレイアは思った。ゾフィーによると、ゲオルクが証拠を根こそぎ拾い集めた結果らしい。凄まじい執念だ。
そんなわけで、レイアは両親とフローラに会いに行くことにした。わざわざ、王宮の近くではあるが、奥まったところにある牢獄まで足を向けた。供もつれず、一人だけで行った。気晴らしのためである。
兵士に案内されて、両親とフローラが収監されている部屋に向かった。
「私は知らなかったんです!殿下を呼んで!」
レイア達が近づくと、フローラの喚き声が聞こえた。恐らく、足音が聞こえたので、訪れた誰かに向かって助けを乞うたのだろう。思っていたよりも元気らしい。
「相変わらずみたいね、フローラ」
「レイア……!おまえのせいよ、おまえが!」
訪れた誰かがレイアとわかると、フローラは形相を鬼に変えた。猫を被る気はないらしい。
「あなたが私のせいにしたい時、それは全て自分のせいだよ」
レイアはボロ切れのような服を見に纏い、ぼさぼさ髪を振り乱して檻を掴んでいるフローラを見下ろした。
「はあ?何言ってんの?私のせいなんてあるわけないじゃない」
成り上がっても落ちぶれてもフローラの性質に微塵も影響していない。妹は高慢で愚かな人間なのだ。それは持って生まれた性格も多分に影響しているのだろう。
「……よくこんな人間に育て上げましたね。お二人とも」
レイアは力なく項垂れている男と呼びかけられ反応を示した女の方を見遣った。つまりはレイアの両親である。そして、フローラの両親でもあり、フローラが高慢かつ愚かになる環境整備をしていた。
「悪かったわレイア許して」
早口でか細い女の声がした。レイアは声の主を一瞥すらしなかった。
「娘として愛してるわ」
相変わらず母親とは意思疎通が図れない。訳のわからない自分本位のことしか言わない。ずっとそうだった。そんな母親に黙って従い、大きな声と力でレイアを黙らすが肝心な時には縮こまる父親。だから嫌だったのだとレイアは嫌悪感の理由を確かめた。
「そういえば、フローラ。どうして王太子殿下に近づいたの」
「この国で一番偉くなる人だからよ。決まってるじゃない」
王太子妃、ゆくゆくは王妃になりたかったのか。その向上心、ゾフィーと似たり寄ったりだが、力量と綿密さは段違いだ。
「おまえが変わらず浅はかで安心した」
レイアはゆっくり息を吐いた。両親もフローラも変わらないままだろう。清々した気持ちまではいかないが一区切りつけられそうだと安堵した。
「おまえ?」
フローラの怪訝な声が聞こえたが、レイアは無視して背を向けた。
「ちょっと何してんのよ!殿下呼んで来てよ。……ここから出せ!!」
キンキンやかましい耳障りな声がする。相変わらず諦めの悪い女だ。これからもそうなのだろう。だが、どんなに願っても喚いても、王太子殿下は来ない。ゾフィーとの婚約破棄を促した王太子の取り巻きは全員処罰された。王太子に嘘をつき、また、王太子に変な虫が近寄ることを許したためだ。この一件の元凶であるフローラを助けようと思えるほど王太子はフローラのことを愛してはいないし、愚かでもない。詰みだよ、フローラ。おまえは負けたのだ。
レイアはすっきりした気分で家に帰ると、ゲオルクが出迎えてくれた。どうだったと問いたげな顔をしている。
「妹は両親共々にカトルガへ流罪、随分なことですね」
レイアは世間話のようにゲオルクに話を振った。カトルガとは強靭で生命力のある者でも一年も持たない、冷たく不毛な地である。そこへの流罪は実質の死刑を意味していた。
「やり過ぎだと思うか?」
「まあ、……もう妹に会えないかと思うと名残惜しい」
これはレイアの本心ではあった。心に一滴あるかないかくらいのわずかなものに過ぎないが。
「俺は清々している」
ゲオルクはいつもより真っ直ぐレイアを見た。
「……冷徹だね。血の涙もない」
清々したと感じた自分を棚に上げてレイアは言った。
「将軍だからな」
「そう……?」
因果関係ないよね?とレイアは首を傾げた。
「今回は私情で動いたが」
「そうなんだ」
「何だかんだ家族のことを気にするあなたが嫌でね……」
「…………そう」
そう見えたのかとレイアは自嘲気味に笑った。特別気にした記憶はないが、気にしないようにしなくてはならないという気持ちはあったのだから、逆説的に気にしていたことになるのだろうかとレイアは考えた。人間とは難儀な生き物である。
「それに、今回頑張ったのは、あなたに頼られたような気がしたからだ」
「……頼ったというよりはいいように使ったが適切ですね」
「惚れた欲目でね。……頼られたように感じたんだ」
「へえ」
レイアは素っ気ない声を出した。素っ気ないのは声だけであった。
「俺も浅はかだろう?」
「…………ん?」
突然なんだ?とレイアはゲオルクを凝視した。
「好きな人に頼られると嬉しくて何でもしてしまうんだ。俺にだってそーゆー愚かしさはある。……見たいんじゃなかったのか?」
「あー、うん、そうね……」
たしか、人の浅はかなところが最高、なんてことをゲオルクに言ったなぁ……とレイアはすぐに思い出した。そして、クソ真面目な奴とレイアはため息をついた。確かにゲオルクは浅はかで愚かなところを見せるとは言っていたような気がするが、まさかその機を本当に伺っていたとはとレイアは驚いた。私の好きな浅はか人間ではないが、つーか、別にあれを愛していたわけではないが、面白がっていただけだが、ゲオルクのアピールする浅はかさを悪くないとレイアは思ってしまった。
「……最高だったわ、ゲオルク」
「期待以上か?」
「それは……、もちろん」
こんな浅はかな家族も悪くないとレイアは諸手を挙げて降参した。これほど愛おしい浅はかさもあるのだなとレイアは熱いものが込み上げた。




