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31. 最高だ、最高の見世物だ

 ゾフィーとフローラは呼ばれるがままに向かうと大広間に辿り着いた。そこそこの人数が集まっている。皆一様にひそひそとゾフィーに冷たい目を向けていた。その中にはレイアの両親もいる。ここにいる皆は王太子に近い人なのだろう。なるほど、完全アウェーらしい。レイアは中心にいる王太子とフローラに目を向けた。フローラの右頬がわざとらしく赤くなっている。王太子はゾフィーからフローラを守るように立ち塞がっていた。

「ゾフィー!お前のような女とは婚約を破棄する!」

「理由をお聞きしたいですわ」

 ゾフィーは落ち着き払って言った。

「フローラに対して会う度に嫌味を言い、フローラの自由な振舞いに難癖をつけたではないか!」

「フローラさんのお振舞いは殿下の威信を傷付けるものでしたので、忠告しただけです」

 王太子の覇気のこもった声とは対照的にしずしずとゾフィーは答える。

「それだけではない!挙げ句の果てにはフローラを虐め、頬を叩いたではないか!」

「頬を?それはいつでしょうか」

「とぼけるな!ついさっきのことだ。フローラに嫉妬して叩いたのだろう。ほら頬が指の跡がつくほど赤くなっている、可哀相に……!」

 あー、なるほど、そーゆー流れねとレイアは見物している。フローラは可哀相な自分を傷付ける悪役にゾフィーを仕立て上げようとしているのか。そして、その断罪を自らの仲間の前で披露する。周囲を味方で固めるとはフローラらしいと言えばらしいなとレイアは謎の頷きをした。

「妬みとは浅ましいものだな……。そこのフローラの姉もそうだ!」

 おっと矛先とレイアは目をぱちっと見開いた。ちゃんと話は聞いていましたとも、他人事のような心地だっただけでねとレイアは心の中で言い訳をした。

「己よりも可憐な妹を妬み、いびっていたのだろう!」

「殿下は周囲に置く人間をお間違えになられたようですね」

 ゾフィーは悲しげに目をまばたかせた。

「はっ、お前達にとってはそうなのだろう。お前達の醜悪さに気づけたんだからな!」

「では、殿下。もし仮にですけれど、フローラさんがあなたに嘘をついていらしたらどうなさいます?」

「……そんなこと、あるわけがない」

「もしもの話です。王族に対する虚言は大罪ですわよね」

「……無論だ。そして、同様に王太子の大事な人を虐めるのも死をもって償うべき大罪だ!」

「そうですわね……」

 ゾフィーは顎に手を置いた。攻守交代かなとレイアはゾフィーを見守った。

「わたくしがフローラさんを虐め、先程頬を叩いたというのは事実ではありません」

「……証明しろ」

 王太子は思ったよりも冷静な声音で言った。案外話の聞ける人間らしい。

「フローラさんの頬が証明しています。右頬が赤くなっていますね」

「だから何だ?」

「わたくし、右利きですので、もし叩くとしますと、フローラさんの左頬を傷付けることになると思いますわ」

「君は狡猾な女性だ。小賢しい真似をしたのではないか?」

 レイアはゾフィーが狡猾というのは王太子はご存知なのかと思った。

「加えて、指の跡です。顎に人差し指、鼻の付近に小指の跡がありますわ。わたくしが叩くとしますと、反対の位置になりますわ。ご覧のように」

 そう言うとゾフィーはフローラの頬の指の跡に手を当てた。ゾフィーの言う通り、顎付近に小指、鼻の付近に人差し指が置かれている。

「まるで、自分で叩いたような跡ですわね、フローラさん」

 ゾフィーは自分の頬に手を当てた。フローラの頬に残っているように、顎付近に人差し指、鼻付近に小指を置いている。

「っ……」

 フローラの様子から見ると図星のようだ。自作自演であんなに指の跡がくっきり残るほど叩けたのかとレイアはあっぱれをフローラに進呈した。

 流れはゾフィーになったとレイアは感じた。それは周囲の取り巻きも王太子も同様のようだった。ただフローラと両親だけは諦めていない様子である。その闘う姿勢は素晴らしいとレイアは手放しで褒めることにした。周囲の状況を飲み込めない浅はかさとまだ何とかなるという淡い可能性に縋る浅はかさ。最高だ、最高に違いない。レイアは自分に言い聞かせた。







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