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19. 色男、二人

 ある日、ヘルマンはゲオルクをお昼に誘った。レイアに関する顛末を根掘り葉掘り聞きたかったからだ。

「レイアさんはどうだった?怒っていただろう」

 輝ける白い頬に手をついて、ヘルマンは興味津々に聞いた。ヘルマンはなんやかんやあってゲオルクとレイアは収まるところに収まった、上手く仲直りできたと予測を立てていた。

「いや……」

 精悍な頬を膨らまして、ゲオルクは肉厚なホンビノス貝をもぐもぐしていた。ゲオルクの表情からはあまり読み取れないが、よく味わって食べているので美味しいのだろう。

「それはよかったな……?」

 ヘルマンは想定外のゲルマンの様子に首を傾げた。

「うーん……」

 ゲオルクは先程から物言いたげな風である。ヘルマンはひとまず、ゲオルクの言葉がまとまり、ホンビノス貝を食べ終わるまで待った。気の長い性質なのだ。

「……やっとスタート地点に立てた気分なんだ」

「ふーん。ちょいと事のあらましをどーぞ」

「かくかくしかじか」

 ゲオルクはざっくばらんに話した。

 曰く、妻ではなく幼馴染を優先した夫に微塵も怒りを感じておらず、その幼馴染の母と小旅行に行っていたらしい。夫には全く興味を示しておらず、よそ行きの態度で接していたが、この件を通して、少しずつ素の自分を見せるようになったとのことだ。

「それで、たしかに昔会った子なのか?」

「ああ」

 ゲオルクは自信満々に言った。



 今更であるが、ゲオルクがレイアを好いているのは昔会ったことがきっかけである。

 それは、ゲオルクがサブリナ達の一家に厄介になっていたころ。ゲオルク少年は一人、近所の丘をフラフラしていた。訳もなく、いじけていたのだ。ちょっとひねたガキだったなぁと苦々しく思い返す年頃である。ゲオルク少年はぶすっと丘を登っていると、何もないところで転んだ。気恥ずかしいことだ。その際に、少々足を捻ってしまった。恥の上塗り、踏んだり蹴ったりである。その時に大丈夫?とどこからともなく声を掛けてきたある少女がいた。質のいい服を着ており、貴族の子と一目でわかった。家族に愛されて育っているのだろうと勝手に妄想したゲオルク少年はいらないと強く突っぱねた。それでも、幼い少女は年上の子供を上手く嗜め、応急手当てを手早くしてくれた。そんな優しい人が忘れられず、ゲオルク少年は恋の丘を転がり落ちたのだった。



「で、確認とかしたの?」

「……いや」

 ゆっくりとゲオルクは首を振った。

「ほう」

 ニタニタとヘルマンは重々しく笑った。

「忘れているだろうから……」

 ゲオルクはデザートの梨のジェラートを口に入れた。だって、10年以上も昔だし、レイアはまだ6、7歳だったしとゲオルクはごにょごにょしている。

「ナイーブだな」

 ヘルマンはふふふと鼻で笑った。

「まっ、もっと距離を縮めたいならどっか行くのが一番じゃね?」

 テキトーなアドバイスをヘルマンはゲオルクに与えた。

「そうだな」

 生真面目なゲオルクはありがたく提案を受け取った。

「仕事はどうだ?」

「今は比較的良好だ」

「なら、視察も兼ねて行け行けどんどん」

 ヘルマンは心底面白そうに笑っている。堅物ゲルマンが恋に現を抜かす様がヘルマンの中でかなりの娯楽となっていた。

「そういえば、ウルリカ王女殿下からの手紙はお返ししたのか」

 ゲオルクは話の矛先を変えた。

「……え?」

 ヘルマンはとぼけた。モテモテのヘルマンは遂には王女からも求愛を受けていた。ヘルマンはどうしようかと少々困っていたのだった。

「色男も大変だな」

 ゲオルクは皮肉気に笑った。

「お前、結構言うよな」

 ゲオルクは生真面目ではあるが、清廉なだけではなく、毒も吐く。ヘルマンはいつものことだと受け流すように、乾いた声で笑った。









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