11. 純白を浅ましさで染め上げて
そして、ついに迎えた結婚式の日。ゲオルクにとっては待ちに待った瞬間がやってきた。ゲオルクが神父の前で花嫁の到着を待っていると、ウェディングドレスを来て現れたのは、何と!なな何と!
「ゲオルク様♡」
レイアではなく、フローラだった。
「なぜ?」
ゲオルクは驚きのあまり目をかっ広げた。
「私の方が似合うでしょう?」
フローラは婀娜っぽく笑った。ドレスの裾をつまみ、気取ったポーズでゲオルクを見つめている。
「私に恥をかかせる気かしら。さあ、誓いましょう」
自信満々にフローラは言い放った。ここまでやれば断られることはないだろうと思っているようだ。これには彼女なりの根拠があった。それは、元々、我が家宛にきた縁談、つまりはフローラとレイア、どちらでもよいという話だったのだ。ならば、レイアよりフローラの方がいいに決まっている。そのように、フローラと両親は結論付けていた。
「つまみ出せ」
「どうして……?」
フローラはありえざるものを見るようにまじまじとゲオルクを見つめた。
「俺はレイアと結婚するんだ」
ゲオルクの鋭い三白眼が活かされた冷たい目線だった。思わず、フローラが怯むほどだ。
「レイアはどこだ?」
ゲオルクは敵を脅すようにフローラを問いただした。
その頃、レイアは修道院に向かって、ガラガラと馬車に揺られていた。のんびりとレイアは馬車の窓からお空を見上げている。
事のあらましを説明しよう。結婚式の準備をしていたレイアの元に、フローラが使用人を引き連れて、カチコミをしてきたのだ。
「レイア、将軍夫人になるのは私よ!わかっているわよね」
この行動力にはレイアも驚き、桃の木、山椒の木。フローラは将軍夫人という高貴な地位に目が眩んでいるようだ。また、愚姉がそんな地位を得ることは耐え難いらしい。浅ましさを原動力にしたとんでもない行動力。これは浅ましポイント500万だなとレイアは澄ました顔の下で採点した。
「……私にどうしろというの?」
レイアはフローラの明確な答えが聞きたくて、質問した。わくわくした気持ちを顔に出さないように頑張った。
「私が結婚式に出るから、お前は修道院にでも行けばいいわ」
と言いながら、フローラはレイアを押しのけ、ウェディングドレスを身につけ始めた。
「………………」
レイアは声が出なかった。フローラは自分に慄くあまり声が出ないと思っていた。フローラは姉のレイアのことを気弱い、臆病、引っ込み思案と見誤っていたのだ。だが、違う。レイアは決してそのような人間ではない。そこそこに我が強く、図太く、人を盾に表に出ない性格である。
さて、なぜレイアは声が出なかったのかというと、感情が昂っていたからである。人の結婚式に無理矢理出るほどの浅ましさ!そうまでしてもゲオルクには嫌われない、受け入れられないとはつゆ程も考えない傲慢さ!恥という概念は無いのだろうか、いやあるはずがない。だって、フローラだもの!とレイアは妹の所業を思い返していた。常に、レイアをいびり、謗り、蔑んでいた。その日常的な浅ましさも楽しいものだったが、今回のフローラの浅ましさは何と素晴らしいことだろうか!このようにレイアの心は過去一盛り上がっていた。
「早く失せなさい」
負け惜しみのようにフローラを眺めてくるレイアに命令した。
「わかりました」
レイアは粛々と承諾した。負け惜しみの感情はレイアの中に一ミリもなかった。フローラは姉のことを正しく理解できていないのだ。レイアはただ妹の浅ましさの頂点を目に焼き付けておきたかっただけである。
そのような成り行きでレイアは馬車に揺られている。妹の浅ましウェディングを見ることが叶わないとは残念だ。窓から空を見ながら、レイアはそのようなことを考えていた。妹に結婚式を取り上げられ、修道院に追いやられる可哀想な姉とはとても思えない。
また、レイアの頭は妹の浅ましさで一杯で、ゲオルクのことは特に考えていなかった。