君の足をくすぐる時、僕は君に鼻をくすぐられた・・・。
藤谷の言う通り、確かに彼の両足は、僕の膝の上に載せられている。
だからって、どうして僕が彼の靴下を脱がすと言う話になるのだろうか?
そう。
それは彼がケガ人で、今、彼を介護できるのは僕しか居なかったから、彼は僕に自分の介助を頼んだのだ。
それは、しょうがないのだから、仕方がないって事なのである。
僕は心の中で、そんな言い訳染みた事を考えた。
それで結局、僕は彼の欲求に答え、彼が靴下を脱ぐのを手伝う事にしたのだった・・・。
僕の膝に両足を載せたまま、藤谷は制服のズボンの右のポケットを弄った。
「はい。これ。」
そう言って藤谷が取り出したのは、少し大きめのビニール袋だった。
藤谷はにっこりと笑い「さっき、キッチンから持って来たんだよね。」と、言った。
僕は気が付かなかったが、藤谷は冷蔵庫へチョコレートを取りに行った時に、ビニール袋をポケットに忍ばせていたと言うのだ。
それで彼は、そのビニール袋を自分のケガしてる左足に被せて、ビニールテープで止めて欲しいと言った。
そうすれば、シャワーのお湯で左足の包帯を濡らさずにシャワーを浴びられるからだと。
彼は更に、長椅子の前のテーブルの下から、ビニールテープを取り出した。
僕は「そうか。」と言って、その2つを受け取り、テーブルの上に置いた。
そして思った。
『詰まり藤谷は、今日は左脚は、洗わないって事か・・・。』と・・・。
それはケガをしてるのだから当然の事なのだが・・・僕の気持ちは、何故か上昇してたのだった。
「両足を載せられたままだと、やりづらいから、右脚を下ろしてもらっていいか?」変に上ずった気持ちを抑えながら、僕は藤谷にそう言った。
「え?あ・・・ごめん。」
藤谷は少し照れながら、僕の膝からスッと右足を少しだけ持ち上げてから床に下ろした。
少し軽くなり、そして広くなった僕の膝上には、残された藤谷のケガしてる左足が残された・・・。
「痛かったら、直ぐに教えてくれ。」
僕は藤谷にそう言うと、彼は相変わらずの少し寝そべった体制のまま、長椅子の背もたれに左腕を掛けて上半身を軽く支え、僕の手元に注視しながら無言でうなずいた。
手始めに僕は、彼のズボンの裾を脹脛の真ん中辺り迄たくし上げた。
学校での昼間の時の様に、彼の白い肌が眩しく見えた・・・。
僕は、少し土埃で汚れてる彼の白い靴下の上の部分(口ゴム部)に手を掛けた。
自分の靴下を履いたり脱いだりするのは慣れてるが、他人の靴下を脱がせるのは、これが始めてだった・・・かも知れない。
それは、バナナを剥く感じとも、茹で卵を剥く感じとも違ってたが、要領は自分の靴下を脱いでる時を思い出せば簡単だと思ったが、そうもいかなかった。
それは健康な足で靴下を脱ぐ方法だからだ・・・。
藤谷の足は怪我をしてるのだから、優しく脱がさなくてはダメなのだ・・・。
それで靴下の上の方からクルクルと全体を巻きながら、足首から踵へと下ろしていった。
足首には湿布が巻かれてるので、藤谷の[やや肉付きの良い華奢な足]にしては太くなってたが、腫れてる感じは無かったので、僕は安心した。
それから更に、湿布をなるべく剝がさないようにしながら靴下を下げた。
ここで僕は藤谷の顔をチラッと見たが、痛みを我慢してる感じでは無かったので、僕はそのまま続けた。
僕の鼻腔には、湿布から発せられるメントールの匂いに交じって、藤谷の足の微かな汗の匂いが感じられた・・・。
僕は更に靴下を丸め、土踏まずの所で一度手を止め「ここまでで、痛くなかった?」と、藤谷に聞いた。
「少しだけ・・・痛かった。」
「え?そうなのか?それなら言ってくれたら良かったのに。」
「少しだけだったし・・・それに・・・。」
「それに?」
「途中からは、痛みよりも、その・・・くすぐったかったから・・・。」
余りに意外な答えだった。
確かに他人に足を触られると、くすぐったいが・・・そんな感覚を他人から最後に与えられたのは、いったい何時の事だったろうか?
だから僕は、そんな事は忘れて居たのだろう・・・。
「そうか・・・。なんか、そんな感覚・・・忘れてたよ。」と、僕がそう言うと。
藤谷は「最後に他人に足をくすぐられたのは、何時だったか覚えてる?」と、真面目な感じで僕に聞いた。
「そうだなぁ・・・。」僕はそう言って、過去の記憶を探った。
「小学校の5年生ぐらいの時に、クラスの友達に悪ふざけでされたのが最後かもな・・・。」
僕はそう言いながら、その時の事を思い出して居た。
すると、その時の足の裏をくすぐられた感覚が急によみがえった。
すると同時に藤谷が「あ!今・・・足をくすぐられた時の感覚がゾワゾワってよみがえったんでしょ?」と、言った。
「え?・・・いや・・・何か変だったか?」
僕がそう言うと「だって。今、君の脚がピクピクって動いたのが、僕の脚に伝わったから・・・。」と、藤谷はクスっと笑い、妙にキラキラとした目で僕を見詰めた。
「そんな余裕があるなら、残りは一気に脱がすからな。」
「え?いや・・・なんか心配だから、最後まで慎重にゆっくり脱がしてよ・・・。」そう言った藤谷の表情は、はしゃいだ感じが一瞬で消え去って居た。
彼のそんな姿に僕は思わず苦笑し「急に、そんなに緊張しなくても良いだろう・・・。」と言って、ゆっくり脱がしてあげる事にしたのだった。
後で振り返れば、僕はこの時初めて、藤谷の事を『可愛い』と思ったのだろう。
だけど、同性を可愛いと思う自分に戸惑ったのだった。
だから僕は、そんな自分の気持ちを隠そうとして、至って冷静な行動を装った。
「じゃ。もう脱がすから。」と、そう言って僕は、彼の靴下に再び手を掛けた。
藤谷は「え?あ・・・ちょっと、まっ・・・てっ!」っと、少し焦った口調で僕に待つようにと訴えた。
だが僕は、彼への意識が変わったからだろうか?
冷静を装った筈なのに、つい面白がって、彼がくすぐったくなる様に自分の左手の指先を這わすようにして、湿り気を感じる彼の足裏にそっと当てた。
そんな僕の指の動きに、彼の左脚はとても小さくだが悶える動きをした。
「ん・・・ん・・・!」
藤谷がくすぐったさを我慢してるのが、太股と、手の指先、そして耳にも感じられ、僕は彼の身体を支配してる様な気になり、さらにこの行為をエスカレートさせたい衝動に駆られた。
すると彼は長椅子の上で身を捩らせて逃げる様な動きをした。
そして「う”~~~~~っん・・・!やっぱりダメ!動かすと少し痛い・・・。」と、言った。
僕はハッとした。
「ごめん。ちょっとふざけすぎた・・・。」
「あ・・・謝らなくても良いよ。僕が頼んだ事だから。」
「ああ・・・じゃあ・・・。後は、くすぐったくしない様にして、ゆっくり脱がすから。」
藤谷は「はぁ・・・。良かった・・・。」と安堵した後、直ぐに「うん。お願い。」と、再び僕に左足を預けた。
僕は、今度はくすぐったく無いようにと気を付けながら、靴下を脱がし始めた。
そして最後は、藤谷の足首を右手で固定して、左手で靴下の爪先を摘まみながら引っ張り、すっぽんっと言う感じに引き抜いたのだった。
その途端、彼の足先からは、さっきよりも濃い汗の匂いが立ち昇り、僕の鼻腔を刺激した。
それは、さっき僕が彼の足をくすぐったお返しにと、今度は僕の鼻がくすぐられてる様だった。
学校で同じ時間を過ごした筈の藤谷の足の匂いは、普段の僕の足の臭いとは全く違う匂いだった・・・。
僕と同じ年齢で、僕と同じ男の足の匂いとは思えない・・・〖若い男の爽やかな汗の匂い〗とは、こうした匂いだったのか!?と、足の匂いにも拘らず僕は思った。
それは、同じ人間なのに〖彼は特別上質な細胞でその身体を形成してる〗のではと思えると言っても良かったのではないだろうか?
兎に角、理解不能だった・・・。
「どうしたの?急に固まって?」
その藤谷の言葉で、僕は我に返った。
その間、いったい何秒ぐらいだったのだろうか・・・?
つづく